Cinema:ミルピエ〜パリ・オペラ座に挑んだ男〜
「ミルピエ〜パリ・オペラ座に挑んだ男〜」を鑑賞。
20年近く芸術監督を務めたブリジット・ルフェーヴルの後任として、史上最年少でパリ・オペラ座の芸術監督に就任した振付家のバンジャマン・ミルピエ。
芸術監督として初めて手がけた新作「クリア、ラウド、ブライト、フォワード」の初日の幕が開くまでの40日間を追ったドキュメンタリー。
ある優れた振付家がひとつの作品を生み出すまでの舞台裏が見られるとともに、若きリーダーとして伝統的な大組織を変革していく様子を追っていて、チームでのものづくり、組織づくり、部下のマネジメントなど、働く人目線で見てもいろんな示唆に富んだ内容だった。
ダンサーに独立したアーティストとして、自らのキャリアの構築やセルフプロデュースに貪欲であるよう伝えたり、怪我でキャリアを棒にふることのないよう医療制度を充実させ、休養や休暇をしっかりとらせるなど、自らの信念をもとに保守的な体制のパリ・オペラ座をばんばん変えていこうとするミルピエ。
エトワールを頂点とする階級制度を批判し、普段ならコール・ド・バレエ(群舞)でしか踊れない下の階級のダンサーや、黒人とのハーフのダンサーに主役を踊らせるなど、これまでの伝統を否定する改革に反発も強かったのか、裏方たちのストライキで幕開けの二公演が中止になるなどトラブルも…。
"常に新しい美が見たい"と、自ら音楽をかけて踊りながら振付を考えるなど、優れた芸術家で、作品の動画を特設サイトにアップして宣伝し、寄付を集めるなどビジネス感覚も持ち合わせているけど、感覚が新しすぎて、パリ・オペラ座みたいに長く培ってきたものがある巨大な組織は彼の個性に合わなくて見るからに窮屈そう。
そしてやっぱり2年の任期で就任したにも関わらず、1年で退任してしまっている。
映像はスローモーションやアップなどを効果的に使い、ダンスシーンがスタイリッシュでかっこよく、そして美しかった!!
振付家としてダンサーたちと楽しそうに作品を作り上げている彼の姿がとても印象的だったので、今から2017年パリ・オペラ座来日公演で彼の作品「ダフニスとクロエ」を観るのが楽しみ。
★Information
「ミルピエ〜パリ・オペラ座に挑んだ男〜」
監督:ティエリー・デメジエール/アルバン・トゥルレー
2015年、フランス
2016年のクリスマスケーキ
毎年「どこのにしようかなぁ」と、選ぶのも楽しみなクリスマスケーキ。
2016年は等々力にあるPâtisserie Asako Iwayanagiで、気になるケーキをカットで3個買う。
まず一つ目。
今年のスペシャリテ"vertnoël"は、ピスタチオを生地にもクリームにもたっぷりとつかった贅沢なひと品。
アッサム2ndフラッシュ マンガラム農園のストレートを合わせてみた。
とっても濃厚なんだけど、ナッツのざくざくした食感とフランボワーズの甘酸っぱさがアクセントになっていて、最後まで飽きることなく食べられた。
続いて二つ目。
白カビチーズケーキ。
こちらはコーヒーと一緒に。
濃厚だけど重すぎない。
チーズのよい香りとほどよい甘さ、上のクリームがミルク感たっぷりで、いいバランス。
大人のチーズケーキといったかんじで、お酒にも合いそう。
ラスト、3つ目。
ほろ苦いキャラメルクリームにミルクティークリーム、そしてアールグレイの香りがするキャラメルりんごが組み合わさった"caranoël"。
これもそれぞれ違った香りなのに、組み合わさると美味しさが何倍にも!
見た目といい、味といい、ここのケーキは芸術品だと思う。
それにしても、お皿やカトラリーが…。
一人暮らしをはじめたときにわ〜っと揃えたものを使い続けているけど、いい加減いい歳なので、きちんとしたものを揃えるのも、来年のやることリストに入れておこう。
歌舞伎座 十二月大歌舞伎 第一部「あらしのよるに」
今年の芝居おさめは歌舞伎座で。
十二月大歌舞伎 第一部「あらしのよるに」を通しで幕見。
きむらゆういち・作、あべ弘士・絵の同名の絵本を歌舞伎化したもので、昨年、京都・南座で上演されて大好評だった作品の再演。
「ともだちなのにおいしそう」
嵐の夜にお互いに正体を知らずに出会い、意気投合した狼のがぶと山羊のめい。
合言葉を決めて、翌日明るい陽の下で待ち合わせ。
お互いの正体を知ってびっくり仰天。
本来であれば「くうもの」と「くわれるもの」の関係な二匹。
お互いの立場を乗り越えて、がぶとめいの友情は続くのか…?
前評判どおり、とっても楽しい、心あたたまるエンターテイメント。
まず何と言っても主演のお二人がすばらしかった!!
「〜でやんす」と、ちょっと変わった喋り方をするユニークな狼ガブを演じる獅童さんは、登場するだけでお客さんの気持ちをぐっと惹きつけるスター性。
狼なのに、ちょっと気が弱くて心優しいがぶがぴったりだった。
男か女か曖昧な、中性的な雰囲気の松也さんの山羊メイの可愛らしさ。
とまどいながらも少しずつ距離を縮めていく二匹のやりとりがとっても微笑ましくて、ほんわかしたあったかい気持ちにさせてくれた。
脇を固める役者さんもそれぞれイメージにぴったり。
自分の願いを叶えるためには手段を選ばない、冷酷無比な狼ぎろの中車さんの大きな存在感。
そのぎろの腰巾着ばりいの猿弥さんの軽やかなコミカルさ。
正義感が強く、熱血漢の狼がいを演じた権十郎さんはさわやかにかっこよく。
魔術師のような狼のおばばを演じた萬次郎さんはさすがの芸達者ぶりで、妖しくうさんくさい雰囲気がばっちり。
対する山羊たちは、梅枝さんのみい姫は「これぞお姫様」という美しさ。
好青年なたぷ(萬太郎さん)と眼鏡をかけた秀才君キャラはく(竹松さん)、山羊のおじじ(橘太郎さん)もいい味を出していた。
言葉遣いは現代的で聞き取りやすくてわかりやすいし、ひびのこずえさんが手がけた衣装もポップでモダン。
でも、演出や鳴り物、動きなど、古典歌舞伎の伝統を踏まえて舞台が作り上げられていて、今の時代ならではの新作歌舞伎になっていた。
観劇日がクリスマスイヴだったということもあって、「三味線であのメロディを!?」をはじめ、クリスマスにちなんだアドリブがたくさん。
千秋楽まで残り3日ということもあって、役者や太夫など、演者みんなノリノリ。
客席も笑いあり、手拍子ありで大盛り上がり。
子どもから大人まで楽しめるし、歌舞伎の入門編にぴったりだと思うので、ぜひ大切にして何度も上演される息の長い作品に育てていってほしいなぁ。
★Information
十二月大歌舞伎
第一部「あらしのよるに」
12/2(金)〜12/26(月)
【配役】
がぶ…中村獅童
めい…尾上松也
みい姫…中村梅枝
たぷ…中村萬太郎
はく…市村竹松
山羊のおじじ…市村橘太郎
ばりい…市川猿弥
がい…河原崎権十郎
狼のおばば…市村萬次郎
ぎろ…市川中車
結婚とか出産とか子育てとか
火曜日。
週末に会った友達から激烈に勧められて、ダイジェストをみて、最終回のみリアルタイムで鑑賞したドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』。
星野源演じる元プロの独身・平匡さんの、お互いにフェアな関係を築こうと、とことん話し合い、努力する姿勢にうるうる。
水曜日。
会社の忘年会の席、同世代の男性社員に投げかけられた「結婚しないの?」のひと言から、「いかに結婚するのに適当な、ほどよき男性がいないか?」をひたすら語り、私の悩み相談会と化した1時間。
そして今日。木曜日。
今、読んでいるエッセイ『きみは赤ちゃん』の作者、川上未映子さんのインタビュー記事を読む。
「もし結婚して、共働きで相手と一緒に子どもを育てたいと思うなら、家事ができる人、料理ができる人、頭の柔らかい人かどうかが、本当に重要になってきます。話を聞いてくれて、意見も言ってくれて、生活を変えていけるだけの器がある人。好きで信頼できる相手であることを前提に、そういう意味では恋愛と子どもを持つことは別だと言いたい。女性も男性も、30歳を過ぎてから後から学べることには限りがあるし、アジャストが難しい。…」
ほんと、そのとおり過ぎて膝を打ちまくり。
でもね、こういう男の人、そんなにたくさんいないと思うの。
さらに、
・相手が自分を憎からず思ってくれる
・自分もその人のことがまんざらではない
も、加えてってなると、自分の身に起こりうるのは果てしない幸運ってやつに恵まれないとダメそうで、結婚や出産がとても遠いことのように感じる…。
フェアな関係を築きたいだけなんだけど、「こう思う」とか「こういうのは嫌だ」と意見を言うと「そんな顔して〜。怖いよ。」などとはぐらかしたり、逆に「怒られた!怖い!」って思考停止に陥って固まってしまったりで、話し合いもままならない人が多いんだよね…。
そもそも「家事は女の仕事!」とか思ってたりして、自分の持っている「女性とはこうあるべき」「男女の関係とはこうだ」という理想像が、どれだけ女性に過度な負担を強いる、不公平なものなのか?ということに無自覚な男もまだまだ少なからずいるし。
そして、そこを指摘すると鬼のように怒る。
結婚してたり、子育てしてる友人たちを見てると、もちろんその人たちの努力ありきでなんだけど、ほんと、奇跡だよなぁと思う。
共働きで、そこそこ仲良くやれているとなおさら。
いろいろ大変なことは、それこそ山のようにあるだろうけれど、手にしている幸せを離さずにしっかりつかんでいてほしいと、陰ながら祈らずにはいられない。
旧白洲邸武相荘
冬らしくからっと晴れて、雲ひとつない青空の休日。
友人と鶴川にある旧白洲邸武相荘へ。
江戸時代に建てられたという、茅葺き屋根に「田」の字型の養蚕農家だったお宅は、白洲次郎・正子夫妻の長い年月をかけた手入れによって、趣味よく居心地のよい住まいに変身していた。
もともと土間だったところ(牛を飼っていたらしい…)を、床暖房を入れた白いタイル貼りにして応接間兼居間にしてしまう、など、その前衛性と感性に驚き。
家の北側にある本でいっぱいの正子さんの書斎。
そして、サンローラン、ミッソーニ、エルメス、ジバンシィなど、錚々たるグランドメゾンの品ばかり、でもどこか"らしさ"のあるワードローブ。
和も洋も、骨董品から現代の作家ものまで、選び抜かれた食器や調度。
素晴らしかった…。
よい空間というのは、ほどよく五感を刺激してくれ、「今、ここにいる」という感覚をしみじみと味わわせてくれるものなんだなぁ。
入口入ったところにある屋外にある囲炉裏。
パチパチと炭の爆ぜる音。
煙の匂い。
じんわりと伝わってくる熱…。
囲炉裏っていいなぁ。
二人の娘さんで、現在、武相荘の管理をしておられる牧山桂子さんの、
「二人は趣味(hobby)は違っても、嗜好(taste)は似ていたと思います」
という言葉が印象に残った。
ひととおり見終わった後は、敷地内にあるレストラン&カフェでお茶を。
コーヒーとアップルパイをいただく。
器はもちろん、福山隆一さんのフクちゃんの絵やオーストラリアの先住民アボリジニの楽器ディジュリドゥなどが飾られたインテリアも素敵で、とても落ち着く空間だった。
「藤田嗣治展ー東と西を結ぶ絵画」at 府中市美術館
東京美学校時代にはじまり、日本国籍を放棄、フランス国籍を取得して宗教画や教会建設に打ち込んだ晩年まで、藤田の画業を年代順に振り返る回顧展。
「乳白色の下地」と表現される美しい白い面に、面相筆で引かれた細くて美しい黒い線。
藤田を一躍パリの寵児にしたのは間違いなく日本の技術なのに、その線や色が作り出す雰囲気はパリの空気そのもの。
藤田にしては珍しく、花瓶に活けた花を描いた作品に心を掴まれた。
「バラ」(1922年、ユニマットグループ)
一輪一輪、好き勝手にあちこちな方向を向いているバラたち。
不自然な方向にぐにゃりと倒れているバラもある。
盛りではなく、萎れて散りかけのその姿。
バラたちが作り出す形が日本の生け花のような雰囲気があり、「素晴らしき乳白色」と称えられたつるんとした白磁の器のような地に、すっと引かれた繊細で美しい墨の線。
日本ならではの美意識と、花瓶や花瓶が置かれているテーブルに掛けられた布地のヨーロッパ的な雰囲気が見事に溶け合って、とても魅力的な静物画だと思う。
優美な絵に混じって、太平洋戦争中に手がけた戦争画の大作が紹介されていた。
東京国立近代美術館がアメリカからの無期限貸与という形で所蔵している作品たち。
暗い色遣いに重たい筆致。
パリ時代の絵とは対照的に、アングルやドラクロワなど、フランスの歴史画の大作を彷彿とさせる緊密な構図。
何度観ても鬼気迫る緊迫した画面に圧倒される。
日本とフランス、常に二つの国の間を揺れ動いていてどちらにも属せない、心情としては永遠のさすらい人なところが藤田の苦しさで、それは作品の大きな魅力になっている。
生き方といい、作品といい、惹かれてやまない興味深い人。
★Information
府中市美術館
藤田嗣治展ー東と西を結ぶ絵画
10/1(土)〜12/11(日)
「仮名手本忠臣蔵」に見立てた幕の内弁当
芝居の幕間、劇場の食堂で予約しておいたお弁当をいただく。
芝居の演目「仮名手本忠臣蔵」八段目から十一段目までに見立てた料理が詰まった忠臣蔵弁当。
献立に書かれた「お料理に使用しておりますのは、"赤穂の塩"でございます。」ににやり。
八段目…嫁入りのため旅立つ母娘に因みサーモンのいくら添え
九段目…雪景色の山科閑居に因み、赤穂の銘菓『塩味饅頭』
十段目…天川屋義平「せめて、手打ちの蕎麦切りを」
十一段目…討入りの立廻りに因み、太刀魚の照り焼きと本懐遂げての勝栗
これまでたくさん通ってきたけど、劇場の食堂を利用するのははじめて。
ちょっとゆったり、贅沢な気分が味わえてなかなか素敵。
毎回は無理だけど、たまには、ね。