「藤田嗣治展ー東と西を結ぶ絵画」at 府中市美術館
東京美学校時代にはじまり、日本国籍を放棄、フランス国籍を取得して宗教画や教会建設に打ち込んだ晩年まで、藤田の画業を年代順に振り返る回顧展。
「乳白色の下地」と表現される美しい白い面に、面相筆で引かれた細くて美しい黒い線。
藤田を一躍パリの寵児にしたのは間違いなく日本の技術なのに、その線や色が作り出す雰囲気はパリの空気そのもの。
藤田にしては珍しく、花瓶に活けた花を描いた作品に心を掴まれた。
「バラ」(1922年、ユニマットグループ)
一輪一輪、好き勝手にあちこちな方向を向いているバラたち。
不自然な方向にぐにゃりと倒れているバラもある。
盛りではなく、萎れて散りかけのその姿。
バラたちが作り出す形が日本の生け花のような雰囲気があり、「素晴らしき乳白色」と称えられたつるんとした白磁の器のような地に、すっと引かれた繊細で美しい墨の線。
日本ならではの美意識と、花瓶や花瓶が置かれているテーブルに掛けられた布地のヨーロッパ的な雰囲気が見事に溶け合って、とても魅力的な静物画だと思う。
優美な絵に混じって、太平洋戦争中に手がけた戦争画の大作が紹介されていた。
東京国立近代美術館がアメリカからの無期限貸与という形で所蔵している作品たち。
暗い色遣いに重たい筆致。
パリ時代の絵とは対照的に、アングルやドラクロワなど、フランスの歴史画の大作を彷彿とさせる緊密な構図。
何度観ても鬼気迫る緊迫した画面に圧倒される。
日本とフランス、常に二つの国の間を揺れ動いていてどちらにも属せない、心情としては永遠のさすらい人なところが藤田の苦しさで、それは作品の大きな魅力になっている。
生き方といい、作品といい、惹かれてやまない興味深い人。
★Information
府中市美術館
藤田嗣治展ー東と西を結ぶ絵画
10/1(土)〜12/11(日)