2016年のクリスマスケーキ
毎年「どこのにしようかなぁ」と、選ぶのも楽しみなクリスマスケーキ。
2016年は等々力にあるPâtisserie Asako Iwayanagiで、気になるケーキをカットで3個買う。
まず一つ目。
今年のスペシャリテ"vertnoël"は、ピスタチオを生地にもクリームにもたっぷりとつかった贅沢なひと品。
アッサム2ndフラッシュ マンガラム農園のストレートを合わせてみた。
とっても濃厚なんだけど、ナッツのざくざくした食感とフランボワーズの甘酸っぱさがアクセントになっていて、最後まで飽きることなく食べられた。
続いて二つ目。
白カビチーズケーキ。
こちらはコーヒーと一緒に。
濃厚だけど重すぎない。
チーズのよい香りとほどよい甘さ、上のクリームがミルク感たっぷりで、いいバランス。
大人のチーズケーキといったかんじで、お酒にも合いそう。
ラスト、3つ目。
ほろ苦いキャラメルクリームにミルクティークリーム、そしてアールグレイの香りがするキャラメルりんごが組み合わさった"caranoël"。
これもそれぞれ違った香りなのに、組み合わさると美味しさが何倍にも!
見た目といい、味といい、ここのケーキは芸術品だと思う。
それにしても、お皿やカトラリーが…。
一人暮らしをはじめたときにわ〜っと揃えたものを使い続けているけど、いい加減いい歳なので、きちんとしたものを揃えるのも、来年のやることリストに入れておこう。
歌舞伎座 十二月大歌舞伎 第一部「あらしのよるに」
今年の芝居おさめは歌舞伎座で。
十二月大歌舞伎 第一部「あらしのよるに」を通しで幕見。
きむらゆういち・作、あべ弘士・絵の同名の絵本を歌舞伎化したもので、昨年、京都・南座で上演されて大好評だった作品の再演。
「ともだちなのにおいしそう」
嵐の夜にお互いに正体を知らずに出会い、意気投合した狼のがぶと山羊のめい。
合言葉を決めて、翌日明るい陽の下で待ち合わせ。
お互いの正体を知ってびっくり仰天。
本来であれば「くうもの」と「くわれるもの」の関係な二匹。
お互いの立場を乗り越えて、がぶとめいの友情は続くのか…?
前評判どおり、とっても楽しい、心あたたまるエンターテイメント。
まず何と言っても主演のお二人がすばらしかった!!
「〜でやんす」と、ちょっと変わった喋り方をするユニークな狼ガブを演じる獅童さんは、登場するだけでお客さんの気持ちをぐっと惹きつけるスター性。
狼なのに、ちょっと気が弱くて心優しいがぶがぴったりだった。
男か女か曖昧な、中性的な雰囲気の松也さんの山羊メイの可愛らしさ。
とまどいながらも少しずつ距離を縮めていく二匹のやりとりがとっても微笑ましくて、ほんわかしたあったかい気持ちにさせてくれた。
脇を固める役者さんもそれぞれイメージにぴったり。
自分の願いを叶えるためには手段を選ばない、冷酷無比な狼ぎろの中車さんの大きな存在感。
そのぎろの腰巾着ばりいの猿弥さんの軽やかなコミカルさ。
正義感が強く、熱血漢の狼がいを演じた権十郎さんはさわやかにかっこよく。
魔術師のような狼のおばばを演じた萬次郎さんはさすがの芸達者ぶりで、妖しくうさんくさい雰囲気がばっちり。
対する山羊たちは、梅枝さんのみい姫は「これぞお姫様」という美しさ。
好青年なたぷ(萬太郎さん)と眼鏡をかけた秀才君キャラはく(竹松さん)、山羊のおじじ(橘太郎さん)もいい味を出していた。
言葉遣いは現代的で聞き取りやすくてわかりやすいし、ひびのこずえさんが手がけた衣装もポップでモダン。
でも、演出や鳴り物、動きなど、古典歌舞伎の伝統を踏まえて舞台が作り上げられていて、今の時代ならではの新作歌舞伎になっていた。
観劇日がクリスマスイヴだったということもあって、「三味線であのメロディを!?」をはじめ、クリスマスにちなんだアドリブがたくさん。
千秋楽まで残り3日ということもあって、役者や太夫など、演者みんなノリノリ。
客席も笑いあり、手拍子ありで大盛り上がり。
子どもから大人まで楽しめるし、歌舞伎の入門編にぴったりだと思うので、ぜひ大切にして何度も上演される息の長い作品に育てていってほしいなぁ。
★Information
十二月大歌舞伎
第一部「あらしのよるに」
12/2(金)〜12/26(月)
【配役】
がぶ…中村獅童
めい…尾上松也
みい姫…中村梅枝
たぷ…中村萬太郎
はく…市村竹松
山羊のおじじ…市村橘太郎
ばりい…市川猿弥
がい…河原崎権十郎
狼のおばば…市村萬次郎
ぎろ…市川中車
結婚とか出産とか子育てとか
火曜日。
週末に会った友達から激烈に勧められて、ダイジェストをみて、最終回のみリアルタイムで鑑賞したドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』。
星野源演じる元プロの独身・平匡さんの、お互いにフェアな関係を築こうと、とことん話し合い、努力する姿勢にうるうる。
水曜日。
会社の忘年会の席、同世代の男性社員に投げかけられた「結婚しないの?」のひと言から、「いかに結婚するのに適当な、ほどよき男性がいないか?」をひたすら語り、私の悩み相談会と化した1時間。
そして今日。木曜日。
今、読んでいるエッセイ『きみは赤ちゃん』の作者、川上未映子さんのインタビュー記事を読む。
「もし結婚して、共働きで相手と一緒に子どもを育てたいと思うなら、家事ができる人、料理ができる人、頭の柔らかい人かどうかが、本当に重要になってきます。話を聞いてくれて、意見も言ってくれて、生活を変えていけるだけの器がある人。好きで信頼できる相手であることを前提に、そういう意味では恋愛と子どもを持つことは別だと言いたい。女性も男性も、30歳を過ぎてから後から学べることには限りがあるし、アジャストが難しい。…」
ほんと、そのとおり過ぎて膝を打ちまくり。
でもね、こういう男の人、そんなにたくさんいないと思うの。
さらに、
・相手が自分を憎からず思ってくれる
・自分もその人のことがまんざらではない
も、加えてってなると、自分の身に起こりうるのは果てしない幸運ってやつに恵まれないとダメそうで、結婚や出産がとても遠いことのように感じる…。
フェアな関係を築きたいだけなんだけど、「こう思う」とか「こういうのは嫌だ」と意見を言うと「そんな顔して〜。怖いよ。」などとはぐらかしたり、逆に「怒られた!怖い!」って思考停止に陥って固まってしまったりで、話し合いもままならない人が多いんだよね…。
そもそも「家事は女の仕事!」とか思ってたりして、自分の持っている「女性とはこうあるべき」「男女の関係とはこうだ」という理想像が、どれだけ女性に過度な負担を強いる、不公平なものなのか?ということに無自覚な男もまだまだ少なからずいるし。
そして、そこを指摘すると鬼のように怒る。
結婚してたり、子育てしてる友人たちを見てると、もちろんその人たちの努力ありきでなんだけど、ほんと、奇跡だよなぁと思う。
共働きで、そこそこ仲良くやれているとなおさら。
いろいろ大変なことは、それこそ山のようにあるだろうけれど、手にしている幸せを離さずにしっかりつかんでいてほしいと、陰ながら祈らずにはいられない。
旧白洲邸武相荘
冬らしくからっと晴れて、雲ひとつない青空の休日。
友人と鶴川にある旧白洲邸武相荘へ。
江戸時代に建てられたという、茅葺き屋根に「田」の字型の養蚕農家だったお宅は、白洲次郎・正子夫妻の長い年月をかけた手入れによって、趣味よく居心地のよい住まいに変身していた。
もともと土間だったところ(牛を飼っていたらしい…)を、床暖房を入れた白いタイル貼りにして応接間兼居間にしてしまう、など、その前衛性と感性に驚き。
家の北側にある本でいっぱいの正子さんの書斎。
そして、サンローラン、ミッソーニ、エルメス、ジバンシィなど、錚々たるグランドメゾンの品ばかり、でもどこか"らしさ"のあるワードローブ。
和も洋も、骨董品から現代の作家ものまで、選び抜かれた食器や調度。
素晴らしかった…。
よい空間というのは、ほどよく五感を刺激してくれ、「今、ここにいる」という感覚をしみじみと味わわせてくれるものなんだなぁ。
入口入ったところにある屋外にある囲炉裏。
パチパチと炭の爆ぜる音。
煙の匂い。
じんわりと伝わってくる熱…。
囲炉裏っていいなぁ。
二人の娘さんで、現在、武相荘の管理をしておられる牧山桂子さんの、
「二人は趣味(hobby)は違っても、嗜好(taste)は似ていたと思います」
という言葉が印象に残った。
ひととおり見終わった後は、敷地内にあるレストラン&カフェでお茶を。
コーヒーとアップルパイをいただく。
器はもちろん、福山隆一さんのフクちゃんの絵やオーストラリアの先住民アボリジニの楽器ディジュリドゥなどが飾られたインテリアも素敵で、とても落ち着く空間だった。
「藤田嗣治展ー東と西を結ぶ絵画」at 府中市美術館
東京美学校時代にはじまり、日本国籍を放棄、フランス国籍を取得して宗教画や教会建設に打ち込んだ晩年まで、藤田の画業を年代順に振り返る回顧展。
「乳白色の下地」と表現される美しい白い面に、面相筆で引かれた細くて美しい黒い線。
藤田を一躍パリの寵児にしたのは間違いなく日本の技術なのに、その線や色が作り出す雰囲気はパリの空気そのもの。
藤田にしては珍しく、花瓶に活けた花を描いた作品に心を掴まれた。
「バラ」(1922年、ユニマットグループ)
一輪一輪、好き勝手にあちこちな方向を向いているバラたち。
不自然な方向にぐにゃりと倒れているバラもある。
盛りではなく、萎れて散りかけのその姿。
バラたちが作り出す形が日本の生け花のような雰囲気があり、「素晴らしき乳白色」と称えられたつるんとした白磁の器のような地に、すっと引かれた繊細で美しい墨の線。
日本ならではの美意識と、花瓶や花瓶が置かれているテーブルに掛けられた布地のヨーロッパ的な雰囲気が見事に溶け合って、とても魅力的な静物画だと思う。
優美な絵に混じって、太平洋戦争中に手がけた戦争画の大作が紹介されていた。
東京国立近代美術館がアメリカからの無期限貸与という形で所蔵している作品たち。
暗い色遣いに重たい筆致。
パリ時代の絵とは対照的に、アングルやドラクロワなど、フランスの歴史画の大作を彷彿とさせる緊密な構図。
何度観ても鬼気迫る緊迫した画面に圧倒される。
日本とフランス、常に二つの国の間を揺れ動いていてどちらにも属せない、心情としては永遠のさすらい人なところが藤田の苦しさで、それは作品の大きな魅力になっている。
生き方といい、作品といい、惹かれてやまない興味深い人。
★Information
府中市美術館
藤田嗣治展ー東と西を結ぶ絵画
10/1(土)〜12/11(日)
「仮名手本忠臣蔵」に見立てた幕の内弁当
芝居の幕間、劇場の食堂で予約しておいたお弁当をいただく。
芝居の演目「仮名手本忠臣蔵」八段目から十一段目までに見立てた料理が詰まった忠臣蔵弁当。
献立に書かれた「お料理に使用しておりますのは、"赤穂の塩"でございます。」ににやり。
八段目…嫁入りのため旅立つ母娘に因みサーモンのいくら添え
九段目…雪景色の山科閑居に因み、赤穂の銘菓『塩味饅頭』
十段目…天川屋義平「せめて、手打ちの蕎麦切りを」
十一段目…討入りの立廻りに因み、太刀魚の照り焼きと本懐遂げての勝栗
これまでたくさん通ってきたけど、劇場の食堂を利用するのははじめて。
ちょっとゆったり、贅沢な気分が味わえてなかなか素敵。
毎回は無理だけど、たまには、ね。
通し狂言 仮名手本忠臣蔵【第三部】 at 国立劇場
国立劇場開場50周年記念。
三ヶ月にわたる「仮名手本忠臣蔵」の完全通し上演。
12月の第三部は、八段目「道行旅路の嫁入」から十一段目「花水橋引揚げの場」まで。
塩谷判官が高師直に斬りかかったとき、それを止めた加古川本蔵。
その一件がもとで本蔵に振りかかる悲劇。
由良之助の依頼に応え、討ち入りに向けて武具類を調達した堺の商人・天川屋義平がみせる侠気。
そしてたくさんの人の思いを背負い、浪士たちが高家に討ち入って無事本懐を遂げ、主・塩谷判官の眠る菩提寺に向かうまで。
3か月追いかけた物語もいよいよ完結。
八段目 道行旅路の嫁入
許嫁の力弥恋しさに、継母・戸無瀬と連れ立って東海道を旅して京都へ向かう小浪。
児太郎さんの小浪は古風な味があって、とても可愛い。
魁春さんの戸無瀬は、もともとおっとりした品の良さが魅力の方なので、意思の強い娘に引きずられるように旅に出たおっとりしたご婦人、という感じ。
お母さんっぽさは薄いかも…。
いつも思うのだけど、歩き方や座り方など身ごなしが本当に美しい。
九段目 山科閑居の場
今回のなかではここが一番の見せ場。
なんとか力弥と添いたいと願う小浪とその思いを叶えてやりたい戸無瀬。
遺恨ある間柄の家の娘を息子の嫁にはもらえない、と冷たく断るお石。
女同士の対決に戸無瀬の夫・加古川本蔵と、お石の夫・大星由良之助が加わって、女の世界と男の世界、情と義理、私と公、正と濁…、それぞれの抱える思いがぶつかりあい、緊迫したドラマが展開する。
魁春さんの戸無瀬はちょっとおとぼけな味があって、強い女というよりここでもやっぱり娘が可愛いおっとり母さんという雰囲気。
小浪に「力弥様と添えないのだったらいっそ殺して!」と言われるまでは、死ぬ覚悟はなさそうに見えた。
対する笑也さんのお石は、ただただ冷たく美しい。
姿も声も本当に美しいのだけど、一人だけくっきりはっきりで現代の人のよう。
そして一人ひそかに覚悟を決めて、山科の大星宅を訪れる幸四郎さんの本蔵。
役者としての幸四郎さんは好きなのだけど、歌舞伎役者としてはとても苦手…。
姿や声ははまっているし、その場に出るだけでぐっと舞台が引き締まる存在感は流石。
でもいつも台詞が一人よがりと言うか…、「自分だけ〜」の世界に入ってうっとり語っているような印象なので、いまいち共感できない。
幸四郎さんファンの方、ごめんなさい。
今回の加古川本蔵もその印象は変わらなかった。
梅玉さんの由良之助は、これまで幸四郎さん→吉右衛門さんと濃厚な役者さんのリレーが続いてきた後なので、お二人に比べるとあっさりさっぱりな由良之助。
穏やかで品があるところが魅力的。
ちょっと無理な配役もあるせいか、ドラマとしては薄い気がした。
児太郎さんの小浪と魁春さんの戸無瀬が死ぬ覚悟を決めて、いざ、というところまでが一番見応えがあり面白く観た。
十段目 天川屋義平内の場
由良之助の頼みに応えて、討ち入りのための武具類を調達した堺の商人・天川屋義平。
義平の店に捕物が現れ詮議をされるが、一人息子を人質に取られても、義平はしらを切りとおす…。
男気あふれる義平を歌六さんが好演。
討ち入りの計画がバレるのを防ぐため離縁した女房お園と一人息子の千吉を愛しく思う気持ち、けれどそれを抑えながら由良之助に義理をとおす男らしさ。
「天川屋義平は男でござる」の名台詞そのまま、本当にかっこいい男だった。
十一段目 高家表門討ち入りの場、高家広間の場、高家奥庭泉水の場、高家柴部屋本懐焼香の場、花水橋引揚げの場
討ち入りから本懐をとげ、主・塩谷判官が眠る菩提寺に向かうまで。
幕が開くと表門の前にずらりとそろった浪士たちの姿。
これだけでわくわくする光景。
雪の中での立ち回りは絵のような美しさ。
とくに奥庭泉水の場で、松緑さん演じる小林平八郎との立ち回りは迫力があった。
本懐を遂げたあとの焼香の場面では、本当にお焼香をあげていて香りが客席まで漂ってくるので、第一部で塩谷判官が亡くなったときの場面を思い出した。
あの場面での、秀太郎さんの顔世御前の、夫・塩谷判官を突然亡くした悲しみ…。
「この気持ち、推量してくれますね。」と由良之助にひと言もらしたときの悲痛な美しさ。
あのときから一年余。
これまで舞台で事の成り行きを見守っていたこちらにもぐっとくるものが…。
最後の花水橋引揚げの場は、朝日を浴びて、光り輝く一面の雪景色。
舞台手前から奥に向かってかかる橋を渡って、浪士たちがずらりとやってきて、花道をとおって菩提寺・光明寺へと進んでいく、その姿が美しかった。
それにしても、挨拶をして花道を去っていく梅玉さんの由良之助、それを見送る左團次さんの桃井若狭之助。
この配役だけはどうにかならなかったのだろうか?
第一部から通しで観ていると、梅玉さんの塩谷判官をいびる左團次さんの高師直の場面が浮かんでしまって…。
三ヶ月通して観て、「終わった〜」という清々しい気持ちでいっぱい。
最初は「どうだろう?」と思うところもあったけれど、実際に舞台を観てみれば、月ごとにそれぞれたくさんの見どころがあって面白い企画だった。
たっぷりと忠臣蔵の世界を堪能した。
★Information
国立劇場開場50周年記念
通し狂言 仮名手本忠臣蔵【第三部】
12/2(金)〜12/26(月)
四幕八場
八段目 道行旅路の嫁入
九段目 山科閑居の場
十段目 天川屋義平内の場
十一段目 高家表門討ち入りの場
同 広間の場
同 奥庭泉水の場
同 柴部屋本懐焼香の場
花水橋引揚げの場
【主な配役】
本蔵妻戸無瀬…中村魁春
娘小浪…中村児太郎
由良之助妻お石…市川笑也
大星力弥(九段目)…中村錦之助
大星力弥(十一段目)…中村米吉
大星由良之助…中村梅玉
天川屋義平…中村歌六
女房お園…市川高麗蔵
寺岡平右衛門…中村錦之助
桃井若狭之助…市川左團次