うたかた日記

流れていく日々の中で感じるよしなしごとを綴ります。

Theatre:「茨木」 at 歌舞伎座

2016年の芝居はじめ。
歌舞伎座で幕見をしてきました。
観たのは昼の部、四、新古演劇十種の内「茨木」です。

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【配役】
伯母真柴 実は茨木童子:坂東玉三郎
士卒 運藤:中村鴈治郎
士卒 軍藤:市川門之助
太刀持 音若:尾上左近
家臣 宇源太:中村歌昇
渡辺源次綱:尾上松緑

【あらすじ】
羅生門で鬼の片腕を切り落とした渡辺綱(わたなべのつな)。
陰陽師 安倍晴明(あべのせいめい)に、鬼が腕を取り返しにくるので、鬼の腕は唐櫃にしっかりとしまい込み、7日間は物忌のために館にこもり、決して人に会ってはいけないと言われます。
晴明の言葉どおり、物忌をして館で過ごす綱。
そこに伯母である真柴が「久しぶりに会いたい」と訪ねてきます。
物忌中であることを理由に面会を拒む綱ですが、あまりに懇願されるので断りきれずに家の中へ招くと、実は伯母に化けて片腕を取り戻しに来た茨木童子だったのです…。


初めて観る演目でした。
松の絵が描かれた背景だけの檜舞台で演じる、いわゆる"松羽目物"なのですが、この演目、もとになっている能や狂言はなく、それっぽく作られた松羽目物だそう。

見所はなんといっても、最初は品のいいおばあさん、後から鬼の本性を現す、真柴 実は茨木童子を演じる玉三郎さん。

左腕を切り落とされてしまった設定なので、鬼の本性を現して腕を取り戻すまで、左腕はずっと袖の中に入れて"ない"ものとして演じていました。
※袖から出すけれど動かさない、という演じ方もあるそうです。

綱が鬼の片腕を切り落とすという手柄を立てたお祝いに、ひとさし舞ってほしいと所望されて踊るのですが、唄の文句の「かいなし」になくしてしまった腕(かいな)が掛かっていたりして、ここら辺から「ん、このおばあさん、もしかして…」と怪しさをにじませてきます。

まんまと綱を騙して唐櫃を開けさせ、自分の片腕を取り戻して鬼の本性を現す場面は、本当に"鬼の形相"になっていて、すごい迫力でした。

渡辺綱を演じたのは、松緑さん。
強い武将を雄々しく演じていました。
とにかく誰よりも声が大きいので、彼がしゃべったり動いたりすると、ものすごいエレルギーを感じます。
ただこの綱さん、晴明に駄目って禁止されてるのに、自分を育ててくれた母親にも等しい真柴に「情け知らず!」と責められると、我慢できなくなって家にあげてしまったり、鬼の片腕を切り落とした話をして「流石!!」と持ち上げられると、嬉しくなって「見せてほしい」という言葉にほいほいのせられて鬼の片腕の入った唐櫃を開けてしまうなど、かなり人間臭い人物なんです。
そういう憎めないキャラクターであることや、気持ちの上げ下げなどがいまいち見えてこなくて、お芝居が一本調子に感じられました。
歴史上でも武勇名高い武将ですし、あまり軽々しく演じるのはなしだと思いますが、綱はこういう風に演じるものなのでしょうか。

綱の家臣 宇源太の歌昇さんはとてもかっこよかったです。
幕が開いてから最初に舞台に出てくるのですが、凛々しくて美しい姿が目を引きました。
まだ20代後半。
これからますますかっこいい役の似合う、男前の役者さんになりそう。

もう一人、太刀持として控えていて、ひとさし舞う場面のある音若。
演じていたのは松緑さんの9歳になるご子息、左近くん。
まだ小学生ですが、しっかり舞台を勤めていて感心しました。
舞台の上で綱の側に控えてじっとしている場面が多いのですが、お父さんの松緑さんと大先輩の玉三郎さん、二人のやりとりを間近で観るのも勉強ですね。
こうした積み重ねが、大きくなって自分が舞台の中心で演じることになったときに生きてくるんだろうな、と受け継がれていくことの凄みの一端を感じました。

舞台そのものはほとんど大道具らしいもののないシンプルな舞台ですが、幕が開くと三味線9人に太夫も9人、横笛1人、鼓5人、太鼓1人が控えている贅沢な布陣。
衣裳も能を意識した作りの、とても豪華で美しいものばかりで、お正月に相応しい華やかさ。
幕見は立ち見も出るほど盛況でした。

★Information
東京都中央区銀座4-12-15
Tel 03-3545-6800

壽初春大歌舞伎
昼の部 四、新古演劇十種の内 茨木
1/2(土)〜1/26(火)