うたかた日記

流れていく日々の中で感じるよしなしごとを綴ります。

METライブビューイングアンコール2016 R・シュトラウス「エレクトラ」

METライブビューイングアンコール2016
2015-2016 第10作 R・シュトラウスエレクトラ」を観てきました。

ギリシャ悲劇「エレクトラ」に題材をとった、父王アガメムノンを殺した母クリテムネストラとその愛人エギトスへの復讐に燃える、王女エレクトラの物語です。

 

ギリシャ悲劇による物語ですが、舞台セットや衣装は現代的。
エレクトラと妹のクリソテミスは宮殿に幽閉されているという設定なのですが、外観も内部も石造りのすっきりとした建物。
エレクトラは濃いグレーのシャツに黒いパンツ、髪はぼさぼさのボブとマニッシュな雰囲気、妹クリソテミスは臙脂色のゆったりとしたセーターに同じ系統の色のフレアのロングスカート、髪型はゆるくパーマをかけたロングヘアと、そのまま街中を歩けそうな格好です。
鮮やかな色はなく、沈んだ色ばかり、モノトーンに近い色調で、重苦しく冷たい印象で、豪華絢爛なオペラのイメージからはほどとおい舞台。

 

この雰囲気の中、R・シュトラウスの不協和音ばかりで構成された、緊張感あふれる音楽にのって、エレクトラが復讐に至るまでの過程が怒涛のように語られ、あっというまの2時間弱でした。


出ずっぱりで2時間弱の上演時間中、ほとんど歌いっぱなし。
タイトルロールのエレクトラを歌うニーナ・ステンメが素晴らしかった!!

音が複雑に動くところでも、少しも乱れることなく美しいソプラノがドラマティックに響くし、どんなに高い音で張ってもキンキンして聞こえない素晴らしい声。
そして歌えるだけでなく、お芝居もすごいんですね。
目の使い方、視線の動かし方がとてもうまく、復讐の念に取り憑かれ、正気と狂気の狭間にいるエレクトラの追いつめられた心理状況が怖いほど伝わってくる鬼気迫る演技でした。

 

アガメムノン」と父王の名を呼ぶ旋律と、死んだと聞かされたばかりの弟オレストが、父の仇を討つため戻ってきて姉のエレクトラと再会する場面、家族の絆が強調されるところの音楽だけ、とても甘やかでロマンティックな旋律になるので印象に残ります。

 

ギリシャ悲劇というと、逃れられない宿命とか、人間の性、業を描き出す、愛憎入り混じった血みどろのドラマ、という印象が強いですが、パトリス・シェローの演出が繊細で、バラバラになりかけた家族をもう一度一つにしようとする、現代的なドラマのように感じました。復讐の鬼と化し、狂気の境にいるように思えるエレクトラも、ただただ深く父親を愛していて、「幸せだった家庭をぶち壊した母親は絶対に許せない!」と意固地になっている哀しい娘にみえます。

また、娘エレクトラの変わりっぷりに戸惑い、嘆き、そして夫を殺した罪の意識に苛まれるクリテムネストラのリアルな女心。

結婚して子どもを産み育てる、という平凡な幸せを望む妹クリソテミスの乙女心との対比もあって、誰もに訴えかけてくる家族の、そしてとりわけ女性たちの緊迫したドラマになっていると思いました。

 

 

ギリシア悲劇〈2〉ソポクレス (ちくま文庫)

ギリシア悲劇〈2〉ソポクレス (ちくま文庫)

 

 

 

★Information

METライブビューイングアンコール2016

2015-16シーズン 第10作 R・シュトラウスエレクトラ」新演出(独語)

 

指揮…エサ=ペッカ・サロネン

演出…パトリス・シェロー

キャスト

エレクトラ:ニーナ・ステンメ(ソプラノ)

クリソテミス:エイドリアン・ピエチョンカ(ソプラノ)

クリテムネストラ:ヴァルトラウト・マイヤー(メゾソプラノ)

オレスト:エリック・オーウェンズ(バスバリトン)

 

ニューヨーク・メトロポリタン歌劇場

2016年4月30日上演