うたかた日記

流れていく日々の中で感じるよしなしごとを綴ります。

Theatre:「愛の伝説」マリインスキー・バレエ at 東京文化会館

久しぶりのバレエ鑑賞。
マリインスキー・バレエの来日公演「愛の伝説」です。
二日間あった上演日のうち、ロパートキナが観たくて一日目の11/27(金) 18時半からの回を観ました。

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物語は…
舞台は古代の東方のとある国。
女王メフメネ・バヌーは自分の美貌と引き換えに、不治の病に冒された妹シリンを托鉢僧に救ってもらう。

シリンは宮廷画家フェルハドと恋に落ちるが、女王バヌーもまた彼のことを好きになる。

妹のために醜い姿になってしまったけれど、もしこんなことになっていなければ、フェルハドに愛されていたのは自分かも知れないと苦悩するバヌー。

二人の仲に嫉妬して、水不足に苦しむ民衆を救うため、岩山を切り開いて水路を作るという難事業をフェルハドに命じる…。

原作はトルコの詩人、音楽はアゼルバイジャン出身の作曲家、振付はロシア人。
そうしたこともあるのでしょうか。
音楽、舞台装置、衣装など、あらゆるところに東洋的な香りがいっぱいで、とてもエキゾチックな作品でした。

白鳥の湖」や「ラ・バヤデール」のような古典バレエの"昔々のおとぎ話ですよ〜"という骨組みを引き継ぎながらも、振付がすごくモダンで斬新です。
古典バレエではマイムで感情表現するところを、振付と群舞で見せており、主役級のダンサーはもちろん、群舞までめちゃくちゃ難しい振付で最初から最後まで踊りっぱなし!
バレエ団の底力が問われる難しい作品ですが、そこはさすがマリインスキー。
プリンシパルから群舞まで、素晴らしかったです。
コールドまでずらりときれいなダンサーが揃い、とにかく品があって美しい。
マリインスキーの大きな魅力を堪能しました。

主なキャストの感想を。

女王バヌー:ウリヤーナ・ロパートキナ
大好きなバレリーナで、彼女が観たくてこの公演のチケットをとったといっても過言ではありません。
見た目は若々しく、いつまでも美しい方ですが、40歳を超えた今、全幕もののバレエを踊るのが観られるのはこれが最後のチャンスかも…と思って。

もうダンサーとしてのピークは過ぎているのか、以前、来日公演の「白鳥の湖」で観たときに圧倒的された、女神のような、女王のようなオーラは感じられませんでした。

けれども、他のダンサーとは明らかに違う、一つひとつの動きの圧倒的な美しさ。
そして、美しいだけではなく、爪先に至るまで全身が、それぞれの振付の意味を雄弁に語っています。
それがぴたりと音楽に調和していて、本当に素晴らしいです。

今回は報われない恋に身を焦がす女王、という役で、ロパートキナの持つ孤高な雰囲気や圧倒的な美しさにぴったり。
妹を愛していながらも、同時に自分が思いを寄せる男性に愛されているゆえに嫉妬し憎悪する、複雑な女心が痛いほど伝わってきました。

ロパートキナはこのバヌー役がとても好きだそうですが、テクニック面でも表現面でも踊りがいのある役で納得です。

王女シリン:クリスティーナ・シャプラン
とっても美人でメディア受けしそうな方で、本国ロシアで「ロミオとジュリエット」のジュリエット役デビューを果たすなど、バレエ団一押しの若手バレリーナのようです。

とにかく若くて綺麗で、美しく天真爛漫なお姫様、という役は、今の彼女には一応はまっているといえます。
ただ若くて美しくキラキラしている、というだけではなくもっと骨のある芯の強さやタフさみたいなものを感じさせる人で、本来の持ち味をいえばバヌーの方があっているのかも。
初役のせいか、踊りが馴染んでいない印象で、宮廷画家フェルハドとの何度もあるパ・ド・ドゥは愛し合う二人というロマンティックなムードがなくて、途中少し退屈でした。

宮廷画家フェルハド:アンドレイ・エルマコフ
とてもハンサムできれっきれの踊りが素晴らしく、役のイメージぴったり。
ただ、王子様的なキラキラ感がある訳ではなく、かといって男臭い魅力たっぷりというタイプでもないので、よくも悪くもクセがなくあまり印象に残らないのがもったいない…。
テクニックはあるしサポートもそつがないし、なんでも器用に踊れちゃいそうな方です。

宰相:ユーリ・スメカロフ
踊りは抜群にきれっきれ、とまではいかないのですが、すっごく存在感があって舞台にいると目がいってしまいます…。
役にはまっているし、魅せ方がうまいんでしょうね。

女王バヌーと踊るところは、「実は女王のことが大好き!」という、公にはせず胸の内に秘めているけど熱い恋心がよく伝わってきました。

すごいダンサーだなと思って、あとで調べてみたら、振付家としても活動していて、あのフィギュアスケートの帝王プルシェンコのプログラムの振付も手がけているとか。
プルシェンコのプログラムで、ニジンスキーを題材にしたすっごく素敵なものがあるのですが、そのプログラムを作ったのがこのスメカロフだそう。
「あれはやっぱりバレエを愛している人が手がけたプログラムだったのか」と、ものすごく納得。

2幕で女王を心配する宰相、宰相の恋心にうすうす気付きながらも無視するバヌーという場面、ロパートキナとスメカロフが一緒に踊るところは全場面中、一番スリリングで観ていてドキドキしました。

女王バヌーのロパートキナと宰相のスメカロフが素晴らしすぎて、王女シリンのシャプラン、宮廷画家フェルハドのエルマコフの、悪くはないけれどいまいちパッとしないカップルとのバランスが悪く、物語全体の印象が偏ってしまっていました。
ダンサーとしての格の違いそのものが出てしまった感が否めません。

道化:グリゴーリーポポフ
よく回り、よく飛ぶ、素晴らしい道化でした。
ポポフという名前に見覚えがあって、あれこれ振り返ってみたら、以前、来日公演の「白鳥の湖」で彼の道化役を観ていたようです…。
このときはとにかく「ロパートキナの白鳥!」と舞い上がっていて、ほかのダンサーのことを覚えておらず、うーん残念。

そのほか、シリンの友人三人のなかの一人を、バレエ団唯一の日本人バレリーナ石井久美子さんが踊っていました。
見た目も踊りも、違和感なく周りに溶け込んでいました。
欧米系のダンサーばかりのところにアジア系が混ざると「ん?」って悪目立ちすることもありますが、馴染めているのは素晴らしい!
まだまだ若いので、もっと真ん中で踊れる日がくるよう、頑張ってほしいですね。

この公演、ダンサーもさることながら、音楽を奏でるオーケストラも素晴らしかったんです!
世界のオーケストラのなかでもトップクラスに入るという、マリインスキー歌劇場管弦楽団による演奏。
とくにトランペットなどの金管楽器の音色が効いていて、とても素敵。
音の持つ物語がくっきり伝わってきて、ダンサーの踊りとあいまってそれはそれは感動的でした。
素晴らしいオケのおかげで、身体ひとつで音を、リズムを、音楽の持つ物語を表現できるクラシックバレエの魅力を再確認しました。

この「愛の伝説」は、ロシア国外で演じられることがほとんどない演目だそう。
興行的なことを考えると、「演目がマイナーだからお客を呼べないかも…」などいろいろ難しい問題はあったと思いますが、あまり知られていない、でも素晴らしい作品を、豪華なキャストとオーケストラを連れて、この日本で上演してくれた関係者のみなさまに感謝です。

キャストによって、印象の変わる作品だと思うので、諸事情が許せば、翌日のテリョーシキナのバヌーも観てみたかった…。

★Information
愛の伝説
11/27(金) 18:30開演

音楽:アリフ・メリコフ
振付:ユーリー・グリゴローヴィチ
台本:ナーズム・ヒクメット
舞台装置・衣装・照明デザイン:シモン・ヴィルサラーゼ

舞踊監督:ユーリー・ファテーエフ
指揮:アレクセイ・レプニコフ
管弦楽:マリインスキー歌劇場管弦楽団

あの傑作バレエ漫画、有吉京子の『SWAN』では主人公真澄がこの「愛の伝説」のシリン役を踊るストーリーがあるそうです。

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