うたかた日記

流れていく日々の中で感じるよしなしごとを綴ります。

Livre:近松門左衛門/諏訪春雄訳注『現代語訳付き 曾根崎心中 冥途の飛脚 心中天の網島』

久しぶりに観に行った、国立劇場文楽二月公演の予習として読んだ本です。

 

近松門左衛門の世話浄瑠璃(時代物に対して、庶民の暮らしを描いた作品)のうち、傑作と呼ばれる3作品を収録した文庫本。

どれも歌舞伎や文楽に少し興味のある方なら、タイトルは聞いたことがあるのではないでしょうか。

特に「曾根崎心中」は文楽のなかでも傑作として名高いですよね。

原文と詳細な註、そして現代語訳が付いています。

文庫で手軽に日本の古典が読めるのが嬉しい…。

 

「曾根崎心中」の徳兵衛とお初。「冥途の飛脚」の忠兵衛と梅川。「心中天の網島」の治兵衛と小春。どれも一般男性と苦界に生きる女=遊女の恋がテーマ。女が不憫な立場にいるからこそ、恋心がますます燃え上がるのか、どの作品も恋ゆえに身をほろぼしていく様が描かれます。

 

「曾根崎心中」では、徳兵衛とお初は浮世のしがらみにがんじがらめに縛られて思いを成就させることが叶わず、現世ではなくあの世で結ばれようと、死を決意します。

 

二人が死に場所として選んだ曾根崎天神まで歩く道行。この文句は名文としてよく知られていますが、本当に美しい文章です。

 

「此の世のなごり。夜もなごり。死にに行く身をたとふればあだしが原の道の霜。一足づつに消えていく。夢の夢こそ哀れなれ。」

 

「冥途の飛脚」では、愛する梅川をほかのお客にとられそうになり、なんとしてもそれをくいとめようと、忠兵衛は武士の金を横領するという罪を犯します。

頭ではダメだとわかっているのに、抑えられない衝動に突き動かされて道をころがり落ちていく…。

「曾根崎心中」が恋の甘く美しい面を描いているとすれば、こちらはどろどろとした深み、凄み、愚かさを描いた作品です。

 

もうひとつ、「心中天の網島」は治兵衛という男性を真ん中に、妻であるおさんと恋仲にある遊女の小春、二人の治兵衛への深い愛を描いています。

どちらの女性も、愛する男性に幸せになってほしいと、自分が身を引く覚悟をするのですが、それぞれの思いやりが空回りし、結局治兵衛と小春は一緒に死ぬ道を選ぶのです。

 

同じ男と女の悲劇的な結末を迎える恋でも、受ける印象がそれぞれ違い、ひとつとして同じ形はないのだなと思いました。

 

そして原文を読んでいると、やはり三味線と一緒に太夫が語っているのを聞きたくなりますね。

しばらく文楽は観ていなかったのですが、また定期的に公演に足を運ぼうと思っています。

 

曾根崎心中 冥途の飛脚 心中天の網島―現代語訳付き (角川ソフィア文庫)

曾根崎心中 冥途の飛脚 心中天の網島―現代語訳付き (角川ソフィア文庫)

 

 

※以前アップした観劇記はこちら。

utakata.hatenablog.com