うたかた日記

流れていく日々の中で感じるよしなしごとを綴ります。

坂東三津五郎さんの思い出

NHK教育テレビで放送されている「にっぽんの芸能」。
8月14日に放送された「坂東三津五郎の芸と人」、録画しておいたものを見ました。
今年2月に亡くなられた、歌舞伎俳優、また坂東流の踊りの家元だった坂東三津五郎さんを偲ぶ番組です。

番組は、三津五郎さんの演技や踊りなど、彼の持ち味が発揮されている舞台の映像を流すとともに、中村勘九郎黛まどかなど、生前交流があった人たちのインタビューで三津五郎さんのお人柄がわかるような構成。

坂東三津五郎さんは好きな歌舞伎俳優さんでしたし、まだまだお若いので、亡くなられたというニュースを聞いたときにはびっくりすると同時にただただ悲しかった…。
病気療養のためしばらく休まれていて、復帰して「さぁ、これから!」というときだっただけになおさらでした。

番組を見て思ったのは、「やっぱりいい役者さんだなぁ」ということ。
私はそこまでたくさん歌舞伎の舞台を観ているわけではないのですが、「素晴らしい舞台だった!」と今も記憶に残っている歌舞伎には、ほぼ三津五郎さんが出ていらっしゃいます。

はじめて三津五郎さんの舞台を観たのは、高校生のとき。
通っていた学校で「伝統芸能鑑賞教室」という、三年かけて歌舞伎、能・狂言文楽を観る年間行事があり、歌舞伎の年に観たのが三津五郎さんと福助さんの演じる「番町皿屋敷」だったのです。
三津五郎さんは、身分を超えて愛したお菊さんに自分の気持ちを疑われて試されたことを知り、逆ギレして殺してしまうという、血気盛んなお殿様の役を好演していました。
お菊さんを殺した後、自暴自棄になり、一度は控えていた喧嘩の現場に向かおうと、槍を構えて花道を走り去る三津五郎さんのかっこいいこと!
これですっかり好きになり、歌舞伎を観に行くときには、三津五郎さんが出ているかどうか、気にして演目を選ぶようになりました。

ざっと印象に残っている舞台をあげてみます。

「青砥稿花紅彩画(あおとぞうしはなのにしきえ)」南郷力丸
→通しで観たのですが、印象に残っているのは女装した弁天小僧の供の者として同行し、強請りにいく場面。
勘三郎さんの演じる弁天小僧 菊之助との掛け合いがアドリブ満載で本当に楽しそうでした。

「棒しばり」
狂言をもとにした演目で、いわゆる「松羽目物」。
これも盟友、勘三郎さんと演じたのを観ました。
二人ともめちゃくちゃ踊れて、身体の動きで魅せることのできる人なので、本当に面白かった〜。

「蘭平物狂」
→とっても強いのに、刀を見ると狂気に襲われるという奇病持ちの蘭平を演じる三津五郎さん。
この芝居は梯子を使ったものすごく派手で危険な立ち回りがあるのですが、三津五郎さんの殺陣、とても華やかで美しく見応えがありました。

ほか、演目は忘れてしまいましたが、友達が誘ってくれたおかげでたった一度だけできた古い歌舞伎座の桟敷席での観劇。
このときも三津五郎さんと勘三郎さんが中心の興行だったんですよね…。

三津五郎さん、涼やかな二枚目で、芝居も上手いし踊れるし、とっても芸達者な方なのですが、小柄でぱっと見華がないのがもったいないといつも思っていたんです…。
よく共演されていた中村勘三郎さんが、舞台に出てくるだけで周りがぱーっと明るくなるような、とても華のある役者さんだったのでなおさらかもしれません。
でも、決して奇をてらわず、基本に忠実で燻し銀のような渋い三津五郎さんの芸、大好きでした。
もう見ることができないんですね…。

三津五郎さんはよく「肉体の芸術は哀しい。どこまで磨いていっても死んでしまったらそれでおしまいだから」ということを仰っていたそうですが、本当にそう思います。
役者やダンサー、さらにはスポーツ選手も、肉体の表現を極めていくものには、いつもその一瞬一瞬だけが真実、人の記憶に残るものこそ全て、という儚さがつきもの。
それだからこそ、より魅力に溢れているのかもしれません。

儚い芸術に命をかけて一生磨き続け、数々の素晴らしい舞台を見せてくださった三津五郎さん、本当にありがとうございました。