うたかた日記

流れていく日々の中で感じるよしなしごとを綴ります。

Theatre:地下室の手記

前川知大主催の劇団イキウメ。劇団の枠からはみ出たものをやりたいと、別館カタルシツという位置付けで作られた「地下室の手記」を赤坂RED/THEATERで観てきました。
 
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赤坂RED/THEATERははじめて行ったのですが、コンパクトな造りで舞台と客席との距離が近いので、役者さんの表情までしっかり見えて臨場感がありました。
 
このお芝居、原作はドストエフスキーの同名小説。自意識過剰が行き過ぎて、なにをやっても自己ツッコミが入り、なにも行動できなくなってついには地下室に閉じこもってしまった元小官吏の一人語りを書いたもの。
 
これを現代日本に移し替えて、一人芝居に仕立てた演劇です。
 
物語の流れは原作に忠実。ひとつ違うのは、ドストエフスキーの小説では"手記"とあるように、主人公が紙上にぶちまけた独白を、読者はただただ読んでいくだけなので一方通行です。
 
これがお芝居ではネットのストリーミング生放送でカメラに向かって語る、という設定になっていて、主人公の言動に対して視聴者から文字でツッコミが入り、それにまた主人公が反応して相互のやりとりが生まれています。
 
この文字ツッコミがかなり面白くて、今回の舞台の肝になっていました。
 
舞台を観る前に予習として、ドストエフスキーの『地下室の手記』を読んでおいたので、あの原作がこうなるのね!と、脚本を書いた前川知大氏のアイディアの素晴らしさが楽しめました。
 
自意識が行き過ぎたが故の引きこもり。他者との関わりを絶っているので、客観的な目線にさらされることがなく、自己イメージだけが肥大して、ますます孤独になっていく…。
 
この主人公、私はとても共感できます。彼ほど極端ではないけれど、人と関わることで生まれる感情の揺れに振り回されたくないから、いっそ人と付き合うのをやめてしまいたいとか、なにかやろうとしたときに「いやいや、でもそれって偽善でしょ」など自己ツッコミが入って素直に行動できないとか、私にとっては大いに「あるある」なことです。
 
作者の前川知大さんも「はじめてドストエフスキーのこの作品を読んだとき、自分のことを書いているのかと思った」と語っているように、主人公のキャラクターに強い共感を覚えているようです。
 
主人公が抱える問題は、非常に現代的なテーマだと思いました。
 
予習として読んだ本 
地下室の手記 (新潮文庫)

地下室の手記 (新潮文庫)

 

 

「名作を今の時代にふさわしい新しい翻訳で」という趣旨で立ち上げられた光文社古典新訳新書から出ているバージョン。このお芝居の原作としては、こちらがあげられています。

 

地下室の手記 (光文社古典新訳文庫)

地下室の手記 (光文社古典新訳文庫)

 
★Imformation
劇団イキウメ別館カタルシツ
脚本・演出:前川知大
出演:安井順平
 
東京公演
2/25(水)~3/9(月)
赤坂RED/THEATER