Livre:『きのうの神さま』(ポプラ文庫、2012年)
「ゆれる」や「ディア・ドクター」などで高い評価を得ている映画監督、西川美和さんの小説です。
あとがきによると、寒村で働く医師を主人公にした映画「ディア・ドクター」の脚本を執筆するため取材したものの、映画化するにあたってこぼれてしまった断片を小説にしたものだそう。
1983年のほたる
ありの行列
ノミの愛情
ディア・ドクター
満月の代弁者
短編が5編おさめられた小説です。
どの短編も、西川美和監督の映画と同じく、人の心の暗くて柔らかい部分がひょこっと顔を出す場面が鋭い目線で切り取られています。
もともと、映画監督が本業だからか、読んでいるとリアルに情景が浮かぶ文章です。
とくに難しい言葉や表現などは使われていないのですが、それでも心の柔らかい部分にぐっと入り込んでくる、適度な重さのある小説たちで、読み終わったあとじんわりきます。
映画と同じタイトルがつけられた「ディア・ドクター」は、映画では主人公だった中年医師を弟の目線から描いた作品といえそうですが、映画を見ていなくても楽しめる、読み応えのある作品でした。
5編のなかで、個人的に一番印象に残ったのは、「ノミの愛情」です。
かつては救急医療の現場で働く看護師としてばりばり働いていたものの、優秀な心臓外科医と結婚してからは家庭に入り、完璧な主婦として家事を切り盛りしている女性のお話。
旦那さんへの細々とした不満とか、ただなんとなく過ぎていく日々への手応えのなさとか、女性が感じている心情がリアルで、とても共感しました。
西川美和さんの映画が好きな方は、この小説も楽しめるのではないかと思います。
- 作者: 西川美和
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映画も素晴らしいので、未見の方はぜひ。
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