うたかた日記

流れていく日々の中で感じるよしなしごとを綴ります。

Cinema:セッション

偉大なるドラマーを目指してニューヨークの名門音楽院に入学したアンドリュー・ニーマン。
鬼教師として有名なフレッチャー教授の目に止まり、彼の指導するスタジオ・バンドにドラマーとして参加することに。
待っていたのは想像を絶する、狂気じみたスパルタ指導!
ニーマンはフレッチャー教授の指導に身も心も追い詰められながら、必死に食らいついていくが…。

今年の4月に公開されて、話題になった一作です。
この映画が成功しているのは、フレッチャー教授演じるJ・K・シモンズの役へのハマりっぷりと熱演によるところが大きいですね。
彼の前ではビシッと背筋を正さずにはいられない、カリスマ性溢れる鬼教師を見事に演じています。
黒づくめで、黒のTシャツに細身のパンツ、ジャケットに帽子と、この服装、フレッチャーのキャラクターが伝わってきていいなと思っていたら、J・K・シモンズのアイディアなんだとか。
次々と汚い言葉で罵声を浴びせかけ、生徒をとことん追い詰めて限界を超えさせようとする。
怒鳴られる場面がほんとに怖い!!
こんな教師がいたら、間違いなくパワハラで訴えられて解雇されてしまうと思いますが、映画を観ていると不思議と「こういう指導もありかも…」と思ってしまいます。
というのも、教える側のフレッチャーも、教わる側のニーマンも「天才は並外れた努力をしないとなれない」「常識を越えて、限界突破した先に天才が生まれる」という一種の都市伝説、神話を信じていて、そこに向かって傍目からみると常軌を逸したレッスンにのめり込んでいくんですね。
こういった天才へのイメージや想いというのは、少なからずみんな持っているのではないでしょうか?
また、寝食忘れてのめり込むほど熱中できるものがあるというのが、ちょっと羨ましく感じられたりもしました。

音楽をやる喜びや楽しさはほとんど表現されず、なにかを突き詰めたいと思って真剣に向き合った時の苦しさ、辛さ、こだわりすぎるあまり執念の鬼になっていく過程など、とことん人間の内面を抉っている映画。
基本的に、ニーマンの視点で物語が描かれているので、音楽映画というよりもサイコ・スリラーのようです。
予告編にもありましたが、ラスト10分弱のカタルシスがすごい。
これを体験するだけでも、観る価値のある映画だと思います。

この映画を撮った監督、デミアン・チャゼルは弱冠28歳。
もともとジャズ・ドラマーを目指していた時期があって、その経験をもとに映画を作ったとか。
予算3億、撮影日数19日という低予算で撮影されたそうです。
それにして、この完成度!
作品全体に独特のスピード感や熱気が感じられるのは、こうした事情もあるんですね。

★Information
セッション
監督:デミアン・チャゼル
(2014年、アメリカ)