うたかた日記

流れていく日々の中で感じるよしなしごとを綴ります。

国立劇場 九月文楽公演 通し狂言 一谷嫩軍記

国立劇場開場50周年記念。
記念すべき幕開け、第一弾の公演の初日へ行って参りました!

 

制札を手に見得を切る、モノクロの直実さんがかっこいいちらし。

 

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並木宗輔作、源平合戦の中でも有名な一ノ谷の合戦を題材に、戦の裏に隠された人々のドラマを描いた「一谷嫩軍記」。
一部と二部にわけて、初段から三段目までを通しで上演するという意欲的な企画です。
「せっかくだから…」と、一部と二部を通しで観劇しました。

 

劇場に足を踏み入れると、床の絨毯が新しくなっていてふっかふか。

トイレのドアが回転式のものになっているなど、ちょこちょこ設備が新しくなっていました。

 

さて、今回の演目「一谷嫩軍記」は、三段目の熊谷桜の段、熊谷陣屋の段は、たびたびかかりますし、歌舞伎でも「熊谷陣屋」としておなじみの演目。
この作品を、物語の発端となるエピソードが描かれた堀川御所の段からはじまって、物語の伏線が一気に回収され悲劇のクライマックスを迎える熊谷桜・熊谷陣屋の段まで、通して観ることで、熊谷次郎直実と無冠太夫敦盛の2人をはじめ、登場人物の人となり、人間関係やそれぞれの抱える事情がよくわかり、これまで「?」だった場面ややりとりも腑に落ちました。

通し狂言ならではの醍醐味ですね。

 

登場人物それぞれの人生に立ち会い、感情移入して見守ってきただけに、最後の熊谷直実の「十六年も一昔。夢であったなぁ」がとても哀しく、虚しく響きます…。

当時、ご法度だった職場恋愛で相模と結ばれ、それが露見して牢屋に入れられるところだったのを、間一髪、相模の主人だった藤の局に救われて逃がしてもらい、東国へ。

源義経に仕え、一生懸命、文字どおり命を懸けて戦い、今は主の信頼厚い部下としての地位まで登りつめたわけです。

それには、相模との間に生まれた可愛い一人息子、小次郎直家のため、ということもあったことでしょう。

「やがて自分のあとを継ぐ小次郎のため、少しでも領地を広げておきたい」と。

小次郎が生まれてから、必死に生きてきた16年。

それがこんな形で息子を失うことになるなんて…。

 

首実検の場面では、同じ場に義経が兄・頼朝を裏切るのではないかと疑っている頼朝の家臣・梶原景高がいるため、直接的に「敦盛を救うため、身代わりに我が子小次郎直家を殺した」とは言えないんですよね。

なので、おおっぴらに泣くこともできず、我が子を亡くした痛みをじっと耐えている直実と相模の姿が本当に哀しくて、見ているこちらも辛い…。

 

さまざまな人の人生が何層にも重なって展開される、重厚な人間ドラマ。

物語の冒頭から、一つひとつ丁寧に張られた伏線が最後の首実検の場面で一気に回収されてクライマックスを迎える筋の運び。

名作と呼ばれる作品の魅力と醍醐味をたっぷり楽しめた舞台でした。

 

 以下、印象に残ったことを箇条書きで。

 

●第一部

・和生さん、ほぼ出ずっぱりで大活躍。無冠太夫敦盛と熊谷小次郎直家の二役に加え、今回の目玉のひとつ、林住家の段の乳母林まで!

・敦盛出陣の段、実は後白河法皇のご落胤だという出生の秘密を明かされても、自分にとっての父は面倒を見てくれた経盛だと、父や兄と一緒に八島で戦って平家一門と運命を共にするという敦盛の高潔な人柄が印象的。緋威の鎧に身を固め、白馬に乗って出陣する姿も美しい。

奥を語っていた、文字久太夫さん&清介さんのコンビ、よかった!

・敦盛の許嫁、玉織姫の性格の激しさよ! お姫様なのに、侍を殺してしまうし、どこまででも敦盛のあとを追いかけていく、その情熱。

・組討の段、遠見の人形を使った演出が素敵

 ・国立劇場では41年ぶりの上演という林住家の段、少し地味ながら風流な一段で好きだなぁ。

・林住家の段、簑助さんが遣う平忠度の恋人、藤原俊成の娘・菊の前の美しいこと!

 

●第二部

・初日のみ、幕開け前に理事長のご挨拶が 。簑助さんの遣う静御前から花束の贈呈もあり。

・脇ヶ浜宝引の段、咲太夫さんのチャリ場が最高におかしかった。お百姓さんのツメ人形を遣う人たちのよい動きも加わって、今回の個人的なベストはこの段!

・熊谷桜・熊谷陣屋の段、この段の相模と直実はあまり激しく動けないのに我が子を失った哀しみを表現しなくてはいけなくて、人形遣いにとっては本当に難しい場面だと思う。相模の清十郎さん、直実の勘十郎さん、それぞれ健闘されていたとは思うけれど、やはり太夫が弱いのか、身を引きちぎられるような哀しみがいまいち見えない。それでも台本がよいので、ぐっとはくる。

太夫は前が呂勢太夫さん、後を英太夫さん。

違う太夫の語りで、人形は相模を和生さん、熊谷を玉男さんの組み合わせで観てみたい。

※昨年2015年4月の国立文楽劇場、5月の国立劇場での玉男襲名公演で上演されているけれど、チケットが取れなかったので観ておらず…。

 

 

〈日本/文楽〉文楽 一谷嫩軍記 熊谷陣屋の段

〈日本/文楽〉文楽 一谷嫩軍記 熊谷陣屋の段

 

 

 ★Information

国立劇場 小劇場

9月文楽公演

通し狂言 一谷嫩軍記
寿式三番叟
9/3(土)〜9/19(月・祝)

 

●第一部

通し狂言 一谷嫩軍記

 

【人形役割】※主な配役のみ
源義経吉田幸
平時忠…桐竹亀次
菊の前…吉田簑紫郎

※林住家の段は吉田簑助
岡部六弥太忠澄…吉田玉志
熊谷次郎直実…桐竹勘十郎
玉織姫…吉田一輔

平経盛…桐竹勘壽
藤の局…吉田勘彌
無冠太夫敦盛…吉田和生

熊谷小次郎直家…吉田和生

平山武者所…吉田玉佳

乳母林…吉田和生

薩摩守忠度吉田玉男

梶原平次景高…吉田玉輝

 

初段 堀川御所の段

豊竹亘太夫

竹本小住太夫

豊竹咲寿太夫

鶴澤清允

鶴澤燕二郎

野澤錦吾

鶴澤清公

 

 

敦盛出陣の段

豊竹希太夫

鶴澤寛太郎(11日まで)

 

豊竹始太夫

竹澤團吾

 

竹本文字久太夫

鶴澤清介

 

二段目 陣門の段

小次郎…豊竹松香太夫

平山…竹本津國太夫

熊谷…竹本文字栄太夫

軍兵…豊竹亘太夫

鶴澤清友

 

須磨浦の段

豊竹芳穂太夫

鶴澤清馗

 

組討の段

豊竹咲甫太夫

野澤錦糸

 

林住家の段

竹本小住太夫

鶴澤清公

 

豊竹睦太夫

鶴澤清志郎

 

竹本千歳太夫

竹澤宗助

 

 ●第二部

 寿式三番叟

【人形役割】

千歳…吉田文昇

翁…吉田玉男

二番叟…吉田玉勢

三番叟…吉田簑紫郎

 

翁…竹本津駒太夫

千歳…豊竹呂勢太夫

二番叟…豊竹咲甫太夫

三番叟…豊竹睦太夫

豊竹芳穂太夫

豊竹靖太夫

豊竹希太夫

豊竹咲寿太夫

竹本南都太夫

鶴澤寛治

鶴澤藤蔵

鶴澤清志郎

鶴澤清じょう

豊澤龍爾

鶴澤寛太郎

野澤錦吾

鶴澤燕二郎

鶴澤清允

 

通し狂言 一谷嫩軍記

 

【人形役割】※主な配役のみ

無冠太夫敦盛…吉田和生

小雪…桐竹紋臣

石屋弥陀六…吉田玉也

藤の局…吉田勘彌

妻相模…豊松清十郎

梶原平次景高…吉田玉輝

熊谷次郎直実…桐竹勘十郎

源義経吉田幸

 

三段目 弥陀六内の段

竹本三輪太夫

野澤喜一朗 

 

脇ヶ浜宝引の段

豊竹咲太夫

鶴澤燕三

 

熊谷桜の段

豊竹靖太夫

豊澤富助

 

熊谷陣屋の段

豊竹呂勢太夫

鶴澤清治

 

豊竹英太夫

竹澤團七