うたかた日記

流れていく日々の中で感じるよしなしごとを綴ります。

Musee:谷崎潤一郎文学の着物を見る at 弥生美術館

細雪』や『痴人の愛』など、谷崎文学に出てくる女性たちの着物の着こなしが再現されている展示会です。

 

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古い日本の小説を読んでいると、しばしば着物の描写が出てきますよね?

ただ、普段着として洋服を着るのが当たり前になってしまっている現在、着物の柄や色、あるいは着物を着る時ならではの小物の名前などが出てきても、なじみがないのでいまいちピンとこない方がほとんどなのではないでしょうか。

 

そこでこの展覧会では、谷崎潤一郎作品に焦点を絞り、小説に登場する女性たちの着こなしを、小説に描かれたのと同じ明治、大正、昭和に作られたアンティーク着物と小物を、ディスプレイに着付けて立体的に再現する、という試みがなされています。

作品のあらすじや、その着物が登場する場面、そして谷崎はどのように描写しているのか、という解説とともに展示されていて、まるで文字の世界から抜け出てきたように、イメージにぴったりの着物が選び抜かれていました。

 

たとえば、こんな感じ。

 

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『肉塊』という作品に登場する、当時流行りのアールヌヴォーの影響を色濃く反映した、孔雀柄の着物です。

帯など、全体的に西洋を感じさせる着こなしですよね。

着物にパールのロングネックレスを合わせていますが、当時実際にされていたそうです。

 

ディスプレイに着付けてあるので、着物と帯だけでなく、半襟帯揚げ、帯締め、足袋や草履など、細かい小物の組み合わせも含めて、それぞれの女性たちの"着こなし"を見ることができます。

 どの着物もとっても素敵でしたが、選ばれた柄や色、そして合わせ方などで醸し出す雰囲気は違っていて、それぞれの女性の性格や好みまで伝わってくるよう。

個人的な好みを言えば、古風な柄で、しっとりとした色合いが多い、『細雪』の四姉妹の三女、雪子の着こなしが好きです。

 

着物についての理解も深められるよう、臙脂や今紫、鳩羽色、納戸色など、着物ならではの色の言い方や、大小あられや矢絣、御所車など、よく出てくる着物の柄の名前、さらに綸子や銘仙など、着物の生地についても詳しく解説されたコーナーがあり、とても行き届いた、中身の濃い展示でした。

 

それにしても、谷崎作品好きで来る人は少ないのか、作品のあらすじを紹介したパネルの前で囁かれる「すごいドロドロな物語ばっかり!」とか「うわぁ、この人、ほんと変態だよね…」という言葉に、みんなそんなに清い世界で生きているのかと、軽い驚きが隠せませんでした…。

谷崎はあっぱれなほど自分の趣味嗜好を突き詰めていますが、そこまでいかなくても多かれ少なかれ、みんな何かしらのこだわりはあるはずだし、あまりにも強く思いすぎてひょいと一線を越えてしまいそうになる、そんな経験だってあるのでは。

 

今回の展覧会の内容は書籍化されています。

実際に足を運ぶまで知らなかったのですが、クラウドファウンディングで実現した展覧会だそうです。

 

 

 

同じチケットで、併設されている竹久夢二美術館の「100年前に竹久夢二が発信♡大正時代の"かわいい"展」も楽しめました。

 

★Information

弥生美術館

東京都文京区弥生2-4-3

 

谷崎潤一郎の着物を見る

3/31(木)〜6/26(日)