うたかた日記

流れていく日々の中で感じるよしなしごとを綴ります。

5月に読んだ本

5月に読んだ本まとめ。

 
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角川書店編『ビギナーズ・クラシック 日本の古典 平家物語』(角川文庫、2001年)
 
古典を原文&現代語訳に、わかりやすい注釈を加えて、初めて読む人にもその作品の魅力が伝わるように編集したシリーズの『平家物語』版。
能や文楽、歌舞伎には、『平家物語』から題材をとったものが多いので、一度きちんと読んでおきたいと思って手に取った一冊。
学校の国語の時間では、「祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり」からはじまる、超・有名な冒頭と、あとは那須与一が遠く離れた小舟の上の扇を射る話や木曽義仲の最期など、なぜか源氏側の武将の話ばかりを学んだんですよね…。
栄華を極めた平家が、あっという間に転落の一途を辿る、その諸行無常の様がこの作品の一番の読みどころのはずなのに。
ダイジェストではありますが、清盛をはじめ、とても人間くさい平家の人々のキャラクターが面白く、全編をきちんと読んでみたくなりました。
 
 
⑵オイゲン・ヘルゲル述 柴田治三郎訳『日本の弓術』(岩波文庫、1982年)
 
大正時代、日本に哲学を教えにやってきたドイツ人のヘリゲル。
日本の思想をなんとかして体得したいと、弓術の名人・阿波研造のもとに弟子入りして稽古に励みます。
師匠との真剣なやりとりのなかで、彼がつかんだ禅の思想の本質が、ぎゅっとコンパクトにまとめられた一冊。
もともと哲学者なので、西洋と東洋の比較など、言葉がとても的確で、その分析・指摘は鋭いです。
「説明してくれ!」と迫るヘリゲルに、「事の本質は、言葉で説明できるものではない。それは体でつかむものだ」と返した阿波の言葉が印象的でした。
 

 

 

 

日本の弓術 (岩波文庫)

日本の弓術 (岩波文庫)

 

 

 

 

 
⑶安田登『イナンナの冥界下り』(ミシマ社、2015年)
 
シュメール神話、イナンナの冥界下りのエピソードと、そこに描かれたまだ心を持たない時代の人間の様子から、これからの時代を生きる知恵やヒントをくみとろうという考察。
筆者の安田登さんはシテ方能楽師で、その経験や知識を踏まえた心と身体の考察が興味深く、あっという間に読んでしまいました。
 

 

 

 

イナンナの冥界下り (コーヒーと一冊)

イナンナの冥界下り (コーヒーと一冊)

 

 

 

 

 
萩尾望都『一瞬と永遠と』(朝日文庫、2016年)
 
大好きな漫画家・萩尾望都さんのエッセイ集。
単行本で発売されていたものの文庫化です。
長年にわたりいろんなところで書いたエッセイが、テーマごとにまとめられていました。
ご自身が感動した映画や本、漫画などを語るものもあったのですが、その分析が深くて鋭くて、エッセイだけを読んでも、感受性が豊かで、あるネタをきっかけにどこまでも自分の世界を広げていける、クリエイターとしての稀有な才能をビシビシ感じます。
本業は漫画家なんですが、言葉の使い方や文章の展開がうまくて、萩尾望都ってなんて才能豊かな方なんでしょう!
それぞれのエッセイの世界観にとても引き込まれました。
 

 

 

 

一瞬と永遠と (朝日文庫)

一瞬と永遠と (朝日文庫)

 

 

 

 

 
三島由紀夫三島由紀夫レター教室』(ちくま文庫、1991年)
 
5人の人物の間でやりとりされる、手紙の文面のみで構成された小説。
ミシマの気の利いた言い回しや、小説家としての構成の巧さを思う存分、堪能できる作品でした。
これは文句なく面白い!
ところどころに添えられた、アルファベットをモチーフにした山本容子さんの銅版画のカットも素敵な一冊。
 

 

 

 

三島由紀夫レター教室 (ちくま文庫)

三島由紀夫レター教室 (ちくま文庫)

 

 

 

 

 
三島由紀夫『命売ります』(ちくま文庫、1998年)
 
ある日、なんとなく死にたくなって、自殺してみたものの失敗して一命をとりとめた若い男。
自分で死ねないのなら、いっそこの命、誰かに預けてみようと思い立ち、「命売ります」の新聞広告を出してみた。
そこから彼が関わることになった様々な事件や人物が複雑に関係しあって、その行く先は…。
 
石原裕次郎などが登場する、ジャズのビートが効いた日活映画に似たテンションで話が進んでいきます。
ミシマなんだけど、平凡な日常からいつの間にかずるずるっと滑り落ちて、世界の狭間に落ち込んでしまっているというストーリー展開が安部公房っぽい。
ラストシーンがミシマの代表作のひとつ、『金閣寺』と相似形で、こちらは週刊プレイボーイに若者向けの軽いタッチの読み物として書いた娯楽作品、あちらは命を削って書いた純文学作品の違いはあれど、「もしや、わざとやってる?」と勘ぐってしまうほどにそっくりです。
真偽のほどはいかに…。
こちらも、山本容子さんの銅版画が表紙に使われています。
 

 

 

 

命売ります (ちくま文庫)

命売ります (ちくま文庫)

 

 

 

 

 
以上、6冊。
う〜ん、見事に今っぽい本がないですね…。
それぞれにすっごく面白かったのですが、地に足のついてない本ばかりで、読んでる間、仕事とのバランスをとるのが大変でした。