Cinema:マシュー・ボーンの白鳥の湖
「マシュー・ボーンの白鳥の湖」を観てきました。
昨年、公開上映されていたらしいのですが、まったく知らず。
白鳥を男性が踊る、という斬新な演出で1995年の初演時、とても話題になった作品。
私が鑑賞したのは、映画館で上映するために2011年に撮影されたものです。
男性の踊る、力強く迫力のあるスワンは、それはそれで素敵だけど、やっぱり私は女性の踊るスワンの方が好きでした…。
ポワントで立って踊る脚のライン、なめらかな腕の動きなどなど、身体のしなやかさや柔らかさ、そこから醸し出されるやさしい雰囲気は、女性ならでは。
この優雅で美しい白鳥たちこそ、クラシックバレエの"スワン"の最大の魅力。
ここにクラシックバレエの美がすべて詰まっていると言っても過言ではないほど。
対するマシュー・ボーンの白鳥たちは、男性が踊ることもあり、獰猛で猛々しく、野性味溢れる生き物として描かれています。
そして、王子が憧れるスワンを男性が踊る、という変更により、物語は必然的に同性愛的な匂いを帯びることに…。
描かれるテーマも「スワン=男性」というアイディアを鍵として変更が行われています。
以下、簡単にあらすじを。
【あらすじ】
母親である女王からの愛に飢えていて、婚約者も王室にはおよそ似つかわしくない品のない女の子で好きになれず、絶望した王子は自殺しようと、大きな池のある公園に向かいます。
そこで見た、白鳥たちの群れの中でも、ひときわ猛々しく美しいスワンに一目惚れ。
生きる意欲を取り戻します。
ある日のパーティーに、スワンそっくりのストレンジャーが現れます。
驚く王子を横目に、ストレンジャーは会場の女性たちを虜にしていきます。
その中には、王子が愛してほしくてやまない女王もいました。
ストレンジャーと女王のふるまいに、動揺してパニックになり、銃を取り出す王子。
惨劇になりそうなところを王子の秘書の機転により逃れ、王子は取り押さえられてしまいます。
その後、王子は病人扱いされ、軟禁状態に置かれています。
そんな王子の寝室に、再び白鳥たちが現れ、王子を攻撃しはじめます。
スワンは必死で彼を守ろうとしますが、その努力もむなしく、王子は白鳥たちによってめちゃめちゃにされてしまいます。
王子の寝室を訪れた女王は、ベッドで冷たくなっている王子を発見するのでした…。
クラシックの"スワン"でも、王子はかなりダメダメなぼくちゃんとして描かれています。
何をするにもママである王妃の顔色を伺いながら、ですし、そもそもオデットに出会うきっかけも「もう子どもじゃないんだから、結婚しなさい」とけしかけられ、「わ〜ん、大人になるなんてイヤだ〜!!」と、森の中に逃げ込んだから。
でも、クラシックバレエの王子は、オデットを好きになることで、大人になるんですよね。
まだ愛することに未熟だから、似ているからと間違った相手を選んでしまう、という失敗を犯してしまうけれど、愛するオデットを救おうと、最後はこの世のあらゆる悪を象徴するロットバルトと戦います。
それは物語の終わり方がバッドエンドのバージョンでもハッピーエンドのバージョンでも変わらない、ストーリーの核。
ですが、マシュー・ボーンのプリンスはとってもひ弱。
ほかの白鳥たちからの攻撃から、必死にスワンが守ってくれようとするのに、彼はスワンと協力することもなく、ただただ攻撃から身を守ろうと体を地面に伏せるばかり…。
結局、一度も戦うことなく、死んでしまいます。
マシューが作り上げたプリンスの、イヤなことからは逃げるばかりの、大人になりきれないヘタレっぷりが、いかにも現代的だなぁと思いました。
音楽を聞いているだけでとても感情を揺さぶられますし、ストーリーもお伽話ではありますが、昼と夜、光と闇、善と悪、男と女、宮廷と森、人間と人間ではないもの、など、物事の二面性がうまくお話の筋に盛り込まれていて、何度観ても新しい捉え方ができるんですよね。
それにしても、クラシックバレエに馴染んだお客にとって、音楽を聴くとぱーっと頭の中に振り付けが浮かぶ、それくらい強力な作品に対して、まったく新しいアプローチを試みて成功させたマシュー・ボーンのチャレンジ精神と素晴らしい才能に拍手を送りたいです。
初演のオリジナル・キャスト、アダム・クーパーの踊るザ・スワン/ザ・ストレンジャーが観られるDVD。
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- 発売日: 2012/03/07
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★Information
「白鳥の湖」
サドラーズ・ウェルズ劇場にて収録
演出・振付:マシュー・ボーン
装置・衣装:レズ・ブラザーストン
照明:リック・フィッシャー
指揮:デーヴィッド・ロイド=ジョーンズ
ザ・ニュー・ロンドン・オーケストラ
ザ・スワン/ザ・ストレンジャー:リチャード・ウィンザー
王子:ドミニク・ノース
女王:ニーナ・ゴールドマン
ガールフレンド:マドレーヌ・ブレナン
執事:スティーヴ・カーカム
若い王子:ジョセフ・ヴォーハン