Theatre:Battlefield 『マハーバーラタ』より at 新国立劇場中劇場
新国立劇場中劇場でお芝居を観てきました。
世界でもっとも有名な演出家、御年90歳になるピーター・ブルックの最新作「Battlefield」。
死体で埋め尽くされ、血で真っ赤に染まった大地に朝日が昇る。
大きな犠牲を払いながら、勝利を収めた王子ユディシュトラの「この勝利は敗北だった」という嘆き。
彼が国を治めようとするにあたってのためらいや苦悩から、善と悪、生と死、運命、義務など、普遍的なテーマが語られます。
舞台は床に赤い布を敷き、黒い椅子が2つ置かれているだけ。
土取利行さんのジャンベの演奏にのせて、何枚かのショールと数本の杖をうまく使って、4人の俳優がいろんな役を演じわけていきます。
無駄なものが一切ないシンプルな舞台で、言葉一つひとつがものすごく響いてくる、素晴らしい芝居でした。
神話のエッセンスが詰まった叙事詩がベースになっているからか、台詞の一つひとつがとても印象に残ります。
たとえば、ユディシュトラが戦いの虚しさを問いかけ、賢者がそれに答える台詞。
「お前は善の中に悪を見、悪の中に善を見る。戦争か平和か、どちらかを選ぶことはできないだろう。この戦いがなければ、また別の戦いがあるだけだ」
ユディシュトラは常に「善とは何か?」「正義とは何か?」を問い続けています。
でも、そこに明確な答えはないのです。
この世には完全な悪もなく、善もない。
世界はすべて混沌としていて、常に流動して形を変えており、確かなものなど存在しない。
見る角度によって、善にも悪にもなりうる。
だからこそ、一歩進むごとに自らに問い、問いを抱えながら生きていく。
そんな東洋思想のベースを流れるメッセージを感じました。
なにもないシンプルな舞台が観客の想像の力を借りて、死体で埋め尽くされた血なまぐさい戦場にも、緑深い森の奥にも変わる。
まるで、あらゆるものが高度に抽象化された能舞台のようです。
芝居を構成するエッセンスには、とても東洋なものがあります。
こうした美意識、きっと欧米の人にはものすごく新鮮なんでしょうね。
30年前に同じ「マハーバーラタ」に挑み、そのときは9時間!という大作だったそうだけれど、このタイミングで同じ題材をとりあげ、70分の芝居に仕立てたのは、「沈黙に耳をすませていたら、今やるべきなのは、シェイクスピアでもオペラでもなく、これだろう。そう時代に促されたから」だそう。
まさに時機を得た作品で、このタイミングで観ることができて、本当によかったと思います。
たくさんの人に観てもらいたいお芝居だと思いましたが、観劇した千秋楽でも結構空席があって、もったいないと思うことしきり。
★Information
Battlefield 『マハーバーラタ』より
新国立劇場 中劇場
11/25(水)〜11/29(日) ※11/29(日)に観劇
脚本:ジャン・クロード=カリエール
翻案・演出:ピーター・ブルック マリー=エレーヌ・エティエンヌ
音楽・演奏:土取利行
衣裳:オリア・プッポ
照明:フィリップ・ヴィアラット
出演:キャロル・カルメーラ ジャレッド・マクニール エリ・ザラムンバ ショーン・オカラハン
昨年公開されたピーター・ブルックのドキュメンタリー。
渋谷のシアター・イメージフォーラムで観ました。
"tightrope(綱渡り)"と名付けられたワークショップの様子がメインで、俳優にかけるピーター・ブルックの言葉一つひとつがとても深かった…。
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『マハーバーラタ』の世界を深く知るために、これから読んでみたい本。
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