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うたかた日記

流れていく日々の中で感じるよしなしごとを綴ります。

Livre:坂口由美子 編『ビギナーズ・クラシックス 日本の古典 伊勢物語』(角川ソフィア文庫、2007年)

古典の教科書でおなじみの作品。

山種美術館で「琳派と秋の彩り展」を観たとき、伊勢物語をモチーフにした作品が多く、「そもそもどんな話なんだろう?」と気になって手に取った一冊です。

この角川ソフィア文庫から出ている"ビギナーズ・クラシックス 日本の古典"シリーズは、現代文、原文、注釈、コラムがついていて、日本の古典の世界をとっつきやすく、手軽に触れられるものにしようというコンセプトで作られています。

伊勢物語』を編集している坂口由美子さんは、中学高校で先生をされている方だそうで、その経験が反映された現代文や注釈がとてもわかりやすく、さくさく読んでいけました。

至るところに「なるべくとっつきやすく、興味を持って読んでもらえるように」と心を砕く、編者のセンスを感じます。
たとえばそれぞれの段に、七五調の短いタイトルがつけられているのですが、古典の教科書に必ずと言っていいほど登場する、第六段、通称"芥川"はこう。
芥河はかなき女(ひと)は露と消え
素敵ですよね。

物語は恋多き風流な「昔男(むかしおとこ。"むかし、男ありけり"ではじまる話が多いことから)」の人生、「初冠」(成人式)から亡くなるところまでが、数々の和歌とともに語られます。

伊勢物語』の文章は、『源氏物語』などに比べると、平易で読みやすい。
学校の古典の授業で習った基礎知識と、独特な表現などについての注釈があれば読めてしまいます。
作品解説にもありましたが、必要最低限のことしか語らない、余白の多い文章なので、とても想像をかき立てられます。

芥川、東下り、筒井筒、梓弓など「そうそう、こんな話だったよね。」と、かつて学校で習ったエピソードを和歌と合わせて意外としっかり覚えていることに驚きました。

学校では恋に生きる、若くてキラキラした昔男が描かれた部分しか習いませんでしたが、後半では年老い、滑稽さを増していく晩年の昔男の姿が描かれていて、その部分がとても面白かったです。

出てくる和歌が、またいいんです。
さらっとした本文に比べると、ものすごくいろんな思い、意味が詰まっていて31文字の短いドラマを見るよう。

たとえば…
おほかたは月をもめでじこれぞこの積れば人の老いとなるもの
(これからは、ただたんに月を見て喜ぶのはやめよう。この月の満ち欠けを重ねることで、人は老いていくのだから。)

思ふこと言はでぞただにやみぬべきわれとひとしき人しなければ
(心に思うことは、言葉にせずにそのままにしておこう。私と同じ気持ちの人はいない。どうせ言ってもわかってくれる人などいないのだから。)

二つ目の歌に滲み出る孤独感、すごいですよね。
悟りの境地にも似た心境にぎゅっと気持ちをつかまれました。

恋を中心に、人生のさまざまな場面で感じる喜怒哀楽が描かれていて、時間が経ってからまた読み返すと、新しい面白さが発見できそうな、懐の深さを感じさせる作品。
まさに古典ですね。

伊勢物語 (角川ソフィア文庫―ビギナーズ・クラシックス)

伊勢物語 (角川ソフィア文庫―ビギナーズ・クラシックス)