Livre:山本淳子『源氏物語の時代ー一条天皇と后たちのものがたり』(朝日選書、2007年)
秋本番ですね。
ふり捨てがたきすず蟲の聲
「大抵の秋(=飽き)は辛いものと知っているのに、世を捨てたはずの私でも鈴虫の声には心が惹かれます」
『源氏物語』鈴虫の巻の中で、女三の宮が詠む歌。
このとき、女三の宮はすでに出家しています。
毎年、秋、夜に虫の声が聞こえるようになると思い出す和歌です。
無性に『源氏物語』が読みたいこの頃なのですが残念ながら持っていないので、代わりに以前読んだこちらの本を再読してみました。
源氏物語の時代―一条天皇と后たちのものがたり (朝日選書 820)
- 作者: 山本淳子
- 出版社/メーカー: 朝日新聞社
- 発売日: 2007/04/10
- メディア: 単行本
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と書くと、ちょっと難しい印象を受けるかもしれませんが、決して難しい本ではありません!
漢文などの素養があり、知的で明るく開放的な性格の定子。
一方、生真面目で内にこもる性格の彰子。
なかでもドラマティックなのは、一条天皇が心から愛した后・定子の人生です。
誰よりも早く后として一条天皇の後宮に入り、帝の寵愛を受けて子どもを授かりますが、父・道隆が亡くなって、後ろ盾が不安定になります。
さらに兄の伊周が花山法皇に対して矢を射かけるという事件を起こし、定子の目の前で逮捕される事態に。
あまりのことにショックを受け、定子は世をはかなんで突発的に髪を下ろし出家してしまいます。
これら一連の出来事があったとき、身重だった定子は予定日を大分過ぎながらも、女の子を出産しました。
定子が尼になってしまってもなお、彼女を諦めきれない一条天皇。
どさくさに紛れて還俗させます。
定子はさらに二人の子どもを授かりますが、三人目の子を出産後、亡くなってしまいます。
定子の死に際して、一条天皇が詠んだ歌。
野辺までに心ばかりは通へども
我が御幸とも知らずやあるらん
定子がどんなに弱い立場に追い込まれても、変わらず彼女を愛し続ける一条天皇。
二人の美しい愛は胸を打ちます。
それぞれの人物の気持ちが、歴史資料と文学作品をもとに丁寧にすくい上げられていて、小説とは違った面白さ。
時代の空気を存分に感じ取れ、まるで平安時代にタイムスリップして、自分もその時代を生きているかのような臨場感が味わえました。
こういう時代だからこそ、『源氏物語』が生まれたのだな、と納得です。