うたかた日記

流れていく日々の中で感じるよしなしごとを綴ります。

Musee:No Museum,No Life?ーこれからの美術館事典 at 東京国立近代美術館

東京国立近代美術館で6/16(火)からはじまっている「No Museum,No Life?  ーこれからの美術館事典」
ようやく観に行けました。

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そもそも美術館ってどんなところ?という本質的な問いをテーマに、AのArt MuseumからZのZeroまで。
36のキーワードで、美術館の構造や機能そのものを事典形式で考察していく展覧会です。

Archive アーカイヴ
Collection コレクション
など、うんうん、なるほどね、
というテーマから、
Hanging 吊ること
Money お金
Storage 収蔵庫
のような、えっ、こんなことまで?な裏側、舞台裏まで、テーマに重ため軽めのリズムがあって、展示の仕方も面白いです。

たとえば、これ。Frame 額/枠。

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普段、絵を鑑賞するときには額縁ってあんまり意識しませんよね?
でも、絵は額縁で飾られることで、壁とは別の、切り取られたある一つの世界として存在しているのです。
そんな額縁が主役となって、マトリョーシカのような入れ子になって展示されています。

壁に穴が開いていて、1番内側の額縁の向こうには、安井曾太郎の「芙蓉」が見えるという心憎い演出。

Light 光/照明も同じ趣向。
絵に光を当て、鑑賞しやすくするために欠かせない照明。
普段、あまり意識されることのない、でも美術館には欠かすことのできない名脇役が主役の座に。
その名もハロゲン照明。
光を描いた印象派の画家、ルノワールの絵と並んで展示されています。

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さらに、こんなのも。
Temperature 湿度。
どんっと置かれた乾湿計

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ここまでくるととってもシュールで、これ自体がアート作品みたいに見えてくるから不思議です。

美術館の仕事の裏側がのぞける項目もあります。
Art Museum 美術館のテーマでは、この展覧会会場全体のミニチュア模型や、展覧会ができるあがるまでの過程をうかがい知ることができる資料、たとえば企画書とか展示品ひとつひとつにつけられる名札のゲラなどが展示されています。

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原稿に入った手書きの赤字が生々しく、アイディアが形を経て、ひとつの現実的な展覧会に結実するまでの流れやその試行錯誤の過程を、断片的にではありますが追うことができて、わくわくします。

こちらも普段は決して見ることができない美術館の裏側。
Handling 取り扱い。Hanging 吊ること。
映像でなんにもないガラーンとした展示スペースに展示用の壁が作られ、作品が運び込まれ、展示されるまでの様子が映像で紹介されています。

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これは壁を作っているところ。
映像に登場する方たちは、みんな手際がよく、無駄のない美しい所作で、「これぞ、職人!」という惚れ惚れする仕事ぶり。
こういう裏方に支えられて、華やかなイベントは成り立っているんですね。

そして、Storage 収蔵庫。

美術館とひとくちにいっても、その美術館の性質や目指す方向性から、ある一枚の絵をどう分類して保管するかが異なってきます。
絵を分類して保管し、後世まで伝えていくのがひとつの重要な役目である美術館において、どう分類して保管するかは、その存在理由が試される肝ともいえます。
これを藤田嗣治の絵がどのように収蔵されているのか、実際に国立美術館の収蔵庫を切り取って見せています。

上が藤田の絵。実物です。
収蔵庫を撮影した写真を原寸大でプリントしパネルにしたものに、掛けて展示されています。

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右下が藤田。

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一方は戦争画と、もう一方はルーベンスの絵の模写とともに、とまったく違う雰囲気ですね。
日本の近代の絵を収集保存する東京国立近代美術館と、広く西洋美術を扱う国立西洋美術館の個性の違いがはっきりと現れています。

舞台裏の極めつきはこちら。
展示される美術作品を梱包していた箱たち。

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テーマはZero。
これも立派な展示の一部です。

なんとなく〜、でなにを見せたいのか、よくわからなくてイライラさせられる展覧会もある中で、「これを見せたい!」っていうコンセプトが明確で、見せ方も構成も、あらゆる点でかなり意欲的な内容です。

展示ボードやチラシ、チケットなど、細かいアートワークも凝っていて素敵。

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しっかりお勉強として見るもよし、斬新な展示品や展示の仕方をミーハー心で楽しむもよし、見る人によって、さまざまな見方ができる懐の広い展覧会だと思います。
「美術館好きで、たまに、あるいはよく行くよ」っていう人には、とくにオススメです。
この展覧会を見ると、これから展覧会を見に行ったとき、これまでの二倍も三倍も楽しめると思います。

ちなみに展示品の一部をのぞき、写真撮影OK。
掲載した画像はすべて、私が展覧会に足を運んだときに撮影したものです。

企画展のチケットがあれば無料で見ることができる、収蔵作品で構成された常設展もさらっと見てきましたが、「誰がために戦う?」というテーマを持って展示していたり(しかもタイトルは石ノ森章太郎の『サイボーグ009』から借りたとのこと! マンガ由来ってなんか斬新です)、常設展を見るためのオーディオガイドを貸し出していたり、なにかこう時代に合わせて(迎合するというんじゃなく、ちらと横目で見つつ、でもやりたいようにやる、みたいな)ジワジワ変わっていこうとしている熱を、美術館全体から感じました。

最後に。
美術館からの素敵な眺め。

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この案内が目印です。

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こんなところにも、美術館をまるごと楽しんでほしい!という心意気が現れていて素敵だな〜と思います。

★Information
東京都千代田区北の丸公園3-1

No Museum,No Life?ーこれからの美術館事典
国立美術館コレクションによる展覧会
6/16(火)〜9/13(日)