うたかた日記

流れていく日々の中で感じるよしなしごとを綴ります。

Cinema:海街diary

楽しみにしていた『海街diary』を観てきました。
もともと、原作になっている吉田秋生のマンガが好きで、是枝監督が撮るというので、高まる期待。

ストーリーはマンガに忠実。
鎌倉の古い一軒家で暮らす三姉妹のもとに、父の死をきっかけに異母妹のすずがやってきます。
父、母、家族、家に対して、それぞれが自分なりの思いを抱えながら、4人が少しずつ距離を縮めて、家族になっていく物語です。

こたつ、桜、新緑、梅仕事、梅雨、花火、海。
めぐる季節の中で、それぞれの登場人物たちの人生の機微が丁寧にすくい取られていて、古き良き日本映画、たとえば小津安二郎成瀬巳喜男の作品を彷彿とさせる雰囲気があります。

でも、静かで淡々とした中に人生の凄みや人間の性みたいなものまでがにじんでいて、大変どっきりさせられる小津や成瀬とは違って、是枝監督の映画はあくまでもふんわりとやわらかく、映画全体にわたって心地よい空気が流れています。

出てくる人々はみな、まっすぐでひたむきでやさしくて…。
お互いを思いやりながら生きていて、少しバランスを崩せば壊れてしまいそうな、繊細であやうい、だからこそとても美しい世界。

個人的に、大竹しのぶの演じるちょっとだらしない三姉妹の母親と、風吹ジュンが演じる海猫食堂を営む二ノ宮さんが印象に残りました。

二人とも50代くらいの女性。
三姉妹の母親は自分が置いてきた三姉妹に後ろめたさがあって、愛情はあるのにうまく娘たちと接することができないんです。
とくに苦手意識のある長女の幸と一緒にいるときには、「体に気を付けて」とか「危ないわよ」など、気遣う言葉ばかりかけています。
そんなところが私の母を連想させ、「ああ、母親ってこういうものだよな。いつも子どもの心配ばかりしているんだな」としみじみしました。

そして、二ノ宮さん。
彼女は結婚もせず、子どもも産まず、食堂の仕事一筋で生きています。
もしかしたら過去にはいろいろあったのかもしれないのですが、映画ではなにも描かれず、ただ食堂のおばさんとして、みんなに慕われていることだけしかわかりません。
そして、映画の中で彼女には辛く苦しい出来事が待っていました。
彼女が自分のお店にやってきたすずに向かって、「すずちゃんのお父さんとお母さんは幸せ者ね。こんな素晴らしい宝を残すことができたんだから」と言う場面には、子どもを産まなかった女性の思いが凝縮していて、はっとさせられました。

この二人が特に印象に残ったのは、これまで、あまり真剣に考えることがなかった、自分は10年後、20年後、どうなっていたいのか、それに思いをはせつつ日々を過ごすことの大切さを、今、切実に感じているからなのかもしれません。

心地よい空気の中で、自分の生き方を見つめ直してみたくなる素敵な映画でした。

★Information
(2015年、日本)


原作のマンガ。

海街diary 1 蝉時雨のやむ頃 (flowers コミックス)

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