うたかた日記

流れていく日々の中で感じるよしなしごとを綴ります。

Musee:「クラーナハ展 500年後の誘惑」 at 国立西洋美術館

2017年の美術館はじめはこちらから。

 

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ドイツ・ルネサンスを代表する画家、ルカス・クラーナハ(父)。

彼の創作活動の全貌を明らかにするとともに、彼の作品にインスピレーションを受けて制作された後代の作品も紹介した展覧会です。

 

大きな工房を経営し、弟子たちと手分けすることで絵画を大量生産して大成功をおさめた優秀なビジネスマンであり、宗教改革ののろしをあげたマルティン・ルターと深く交友していたなど、クラーナハの人となりがまず大変興味深かったです。

 

そして、その作品。

"漆黒の闇に浮かび上がる冷たい美女"
ユディトやサロメ、ヴィーナスにルクレティア…。
名もない女性であっても、クラーナハの描く女性はそんなイメージです。
切れ長の目にすっと通った鼻、広いおでこに薄い唇の顔からはどこか理知的な印象を受けますし、極端ななで肩に小さな胸、すらっと伸びた長い手足を持つ肉体はなめらかな曲線が強調されつつもどこか中性的。
イタリアやフランスの裸体画、美人画とはまったく異なる種類の美しさです。
決してリアルではない、二次元だからこそ作り出せるあやかしの世界。
ひんやりした美女たちに魅了されました。

 

今回の展示で初めて知ったのですが、「これぞクラーナハ!」という冷たいエロティシズムに満ちた裸体画を描きはじめたのは60歳を過ぎたあたりからなんですね。

それ以前の絵はさまざまな作風のものがあり、題材や依頼主などに合わせて、柔軟に絵画制作をしていたのだなぁと思いました。

イタリア・ルネサンスの影響そのままの「聖母子」(1515年頃、ブダペスト国立西洋美術館)もありながら、車輪が大破し人々がパニックにおちいる様を強調して描いている「聖カタリナの殉教」(1508/09年頃、ラーダイ改革派教会、ブダペスト)など、独特の美意識が感じられる絵がありました。

 

とくに彼が熱心に取り組んでいたという版画作品を紹介したコーナーは、同時代を生きたアルブレヒト・デューラーの作品もあわせて展示してあるので、見比べると二人の美意識の違いがわかって面白かったです。

デューラーの作品はとにかく理知的で、線や構図が整理されていてすっきりしているので、ぱっと見て何が描いてあるのか一目瞭然。

それに比べると、クラーナハの作品は線がうねうねしていて、構図も複雑なので、よく見ないと何が描いてあるのかわからないものが多数。

その分、動きが感じられて、生々しくもあります。

 

「よくわからないけど、不思議な魅力があって惹きつけられる」

そんなクラーナハの作品には、人の心をつかんで離さない"なにか"がたっぷり潜んでいるところが魅力的でした。

 

裸婦の中の裸婦 (河出文庫)

裸婦の中の裸婦 (河出文庫)

 

 



★Information

国立西洋美術館

クラーナハ展 500年後の誘惑」

2016/10/15(土)〜2017/1/15(日)

ウィーンフィルニューイヤーコンサート2017〜指揮者ドゥダメル氏と音楽プログラム「エル・システマ」

昨日の夜、なんとなく見はじめたウィーンフィルのニューイヤーコンサートの生中継。

指揮者がクラシック音楽の場ではあまり見かけないチリチリふんわりヘアーの、気のいいあんちゃんのような雰囲気の方で、ポルカやワルツなどを自ら踊り出さんばかりにノリノリで指揮しているのに引き込まれて、最後のラデッキー行進曲まで聴いてしまいました。

ああ、楽しかった…。

 

あとで調べてみたら今年の指揮者、グスターボ・ドゥダメル氏は35歳の若さでありながら、世界の名だたるオーケストラから引っ張りだこで、"100年に1人の逸材"とも呼ばれているすごい人なんですね。

 

南米ベネズエラ出身で、音楽を学んだのは1975年から経済学者のホセ・アントニオ・アブレウ主導ではじまった、音楽教育プログラム「エル・システマ」をとおして。
貧困や犯罪、暴力をなくす目的でスタートしたもので、スラムの子どもたちに無料で楽器の演奏や合唱などを教え、音楽活動の場を与えることで、音楽をとおして社会性などいろんな能力を育む機会にもなっているんだとか。

ドゥダメルさんもあまり裕福ではない家庭の出身だそう。

 

クラシック音楽はどうしても裕福な環境にいる人たちのものだというイメージが強いですが、ベネズエラではこんなすごい取り組みがされていたんですね…。

たとえ演奏家にはならなくても、音楽をとおしてこつこつ努力することを学んだり、みんなと協力して一つのものを作り上げる喜びを感じたり、なによりも目標が持てて、居場所がある。

そのことがどんなに厳しい環境で生活している子どもの心を支えてくれるか…。

 

この教育プログラムについて、本が出ていたので、機会を見つけて読みたいと思っています。

 

世界でいちばん貧しくて美しいオーケストラ: エル・システマの奇跡

世界でいちばん貧しくて美しいオーケストラ: エル・システマの奇跡

 

 

 

なんて素敵な女性がいたものだ〜半澤鶴子さん

2017年、新しい年の1日目。

NHKETV特集アンコール、「女ひとり 70歳の茶事行脚」を観ました。

茶事は千利休が考案したものと言われ、懐石料理とお酒でのもてなしから茶席まで4時間に及ぶお茶会。

この茶事を依頼に応じて催す、出張茶事の第一人者として知られる女性、半澤鶴子さんのドキュメンタリーです。

 

半澤さんは70歳になって、茶釜などの茶事に必要な道具一切を車に積み、道中、ご縁があって出会った人を茶事に招くという旅に、春夏秋冬、季節ごとに出かけます。

番組ではその旅先での出会いと茶事の様子を追いかけていました。

 

半澤鶴子さんのやんわりした関西弁の語り、そしてお着物であれこれと立ち働く姿がとても美しいのです。

番組途中で生い立ちが語られていたのですが、幼い頃に父母と別れ(置き去りにされるような形だったようです…)、親戚に面倒を見てもらっため、誰にも甘えることができず、大変苦労されたようです。

でも、その苦労をまったく感じさせない、清らかで、時に神々しさすら覚える佇まいに魅了されました。

 

たった一人で、材料集めや献立づくり、茶席の掃除や室礼、提供する料理の調理、当日のもてなしと、茶事のすべてをこなす半澤さん。
それだけでもすごいことなのに、「ああもしてあげられたか、こうもしてあげられたかと、心残りばかりです」と仰る、その謙虚な姿勢。

こんなに愛に溢れた、素敵な方がいたなんて…。

 

春、新潟・寺泊の古い茶室で、地元の方々を招いてのスギナやヨモギなど、春の野草を使った茶事。

夏、滋賀の琵琶湖畔で、漁師さんたちを招いてのビワマスを使った茶事。

秋、京都・瑞峯院にある平成待庵で、ご住職をもてなした一対一の茶事。

岡山の農村で、80歳を超えた幼馴染の女性二人を招いた茶事。

冬、奥会津、雪の中で女子高生三人をもてなした茶事。

 

お茶の席というと、どうしても作法のことが気になり緊張して堅苦しいもの、というイメージがありますが、半澤さんの茶事はまったく別物。

みなさん、リラックスしていて、なんとも言えないいいお顔をされており、ぽつりともれる言葉のそれぞれがとても印象深かったです。

それも半澤さんのお人柄ゆえ、なのでしょうね。

"一期一会"というのがどういうことなのか、茶の湯の真髄を半澤さんのお姿をとおしてのぞかせていただいた時間だったように思います。

 

「花一輪に飼いならされて」

半澤さんが慕っている、京都・瑞峯院のご住職とのやりとりの中ででてきて、印象に残った言葉です。

 

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 ETV特集 - NHK

Livre:川上未映子『きみは赤ちゃん』(2014年、文藝春秋)

川上未映子『きみは赤ちゃん』(文藝春秋、2014年)を読み終わる。

 

その予定はないけれど、「妊娠出産ってどんなものなんだろう?」と思って手にとった一冊。
芥川賞作家の川上未映子さんが、夫である同じく作家の阿部和重さんとの間に授かったお子さんが1歳を迎えるまでの日々を綴った、出産・育児エッセイ。

出産編と産後編、大きく二つのパートに分かれているのだけど、どちらの日々もお母さんは大変!!
妊娠出産も命がけの大仕事だし、産んでからはまともに寝られない状態が続く、赤ちゃんのお世話が中心になる生活がまったなしのスタート。

マタニティーブルーから育児うつや産後クライシスなど、妊娠出産のダークサイドがさらりと、しかし結構赤裸々に綴られているので、そのしんどさ、大変さには恐れ入るばかり。
みんな、そんなに詳しくは語らないけど、こんなに大変なのね…。
こればっかりは、当事者になってみないと本当のところはわからないんだろうけど。
自分の母親もそうだし、子育て真っ最中の友人たちも、このしんどさを体験していると思うと頭が下がるし、少しでも力を貸せることがあったら協力したいと思う。

出産育児のしんどさ大変さが語られながらも、全編とおして親になったことの喜びやお子さんへの愛がじわぁ〜と溢れていて、読んでいるこちらも幸せな気持ちになった。

赤糸の刺繍を使った装丁も素敵だし、出産を控えた方にプレゼントするのもよさそう。

 

 

 

きみは赤ちゃん

きみは赤ちゃん

 

 

 

 

Cinema:ミルピエ〜パリ・オペラ座に挑んだ男〜

「ミルピエ〜パリ・オペラ座に挑んだ男〜」を鑑賞。

20年近く芸術監督を務めたブリジット・ルフェーヴルの後任として、史上最年少でパリ・オペラ座の芸術監督に就任した振付家のバンジャマン・ミルピエ。
芸術監督として初めて手がけた新作「クリア、ラウド、ブライト、フォワード」の初日の幕が開くまでの40日間を追ったドキュメンタリー。

 

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ある優れた振付家がひとつの作品を生み出すまでの舞台裏が見られるとともに、若きリーダーとして伝統的な大組織を変革していく様子を追っていて、チームでのものづくり、組織づくり、部下のマネジメントなど、働く人目線で見てもいろんな示唆に富んだ内容だった。

ダンサーに独立したアーティストとして、自らのキャリアの構築やセルフプロデュースに貪欲であるよう伝えたり、怪我でキャリアを棒にふることのないよう医療制度を充実させ、休養や休暇をしっかりとらせるなど、自らの信念をもとに保守的な体制のパリ・オペラ座をばんばん変えていこうとするミルピエ。
エトワールを頂点とする階級制度を批判し、普段ならコール・ド・バレエ(群舞)でしか踊れない下の階級のダンサーや、黒人とのハーフのダンサーに主役を踊らせるなど、これまでの伝統を否定する改革に反発も強かったのか、裏方たちのストライキで幕開けの二公演が中止になるなどトラブルも…。

"常に新しい美が見たい"と、自ら音楽をかけて踊りながら振付を考えるなど、優れた芸術家で、作品の動画を特設サイトにアップして宣伝し、寄付を集めるなどビジネス感覚も持ち合わせているけど、感覚が新しすぎて、パリ・オペラ座みたいに長く培ってきたものがある巨大な組織は彼の個性に合わなくて見るからに窮屈そう。
そしてやっぱり2年の任期で就任したにも関わらず、1年で退任してしまっている。

 

映像はスローモーションやアップなどを効果的に使い、ダンスシーンがスタイリッシュでかっこよく、そして美しかった!!

振付家としてダンサーたちと楽しそうに作品を作り上げている彼の姿がとても印象的だったので、今から2017年パリ・オペラ座来日公演で彼の作品「ダフニスとクロエ」を観るのが楽しみ。

★Information

「ミルピエ〜パリ・オペラ座に挑んだ男〜」

監督:ティエリー・デメジエール/アルバン・トゥルレー

2015年、フランス

2016年のクリスマスケーキ

毎年「どこのにしようかなぁ」と、選ぶのも楽しみなクリスマスケーキ。
2016年は等々力にあるPâtisserie Asako Iwayanagiで、気になるケーキをカットで3個買う。

 

まず一つ目。
今年のスペシャリテ"vertnoël"は、ピスタチオを生地にもクリームにもたっぷりとつかった贅沢なひと品。

アッサム2ndフラッシュ マンガラム農園のストレートを合わせてみた。

 

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とっても濃厚なんだけど、ナッツのざくざくした食感とフランボワーズの甘酸っぱさがアクセントになっていて、最後まで飽きることなく食べられた。

 

続いて二つ目。

白カビチーズケーキ。

こちらはコーヒーと一緒に。

 

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濃厚だけど重すぎない。

チーズのよい香りとほどよい甘さ、上のクリームがミルク感たっぷりで、いいバランス。

大人のチーズケーキといったかんじで、お酒にも合いそう。

 

ラスト、3つ目。

 ほろ苦いキャラメルクリームにミルクティークリーム、そしてアールグレイの香りがするキャラメルりんごが組み合わさった"caranoël"。

 

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これもそれぞれ違った香りなのに、組み合わさると美味しさが何倍にも!


見た目といい、味といい、ここのケーキは芸術品だと思う。

それにしても、お皿やカトラリーが…。
一人暮らしをはじめたときにわ〜っと揃えたものを使い続けているけど、いい加減いい歳なので、きちんとしたものを揃えるのも、来年のやることリストに入れておこう。

歌舞伎座 十二月大歌舞伎 第一部「あらしのよるに」

今年の芝居おさめは歌舞伎座で。
十二月大歌舞伎 第一部「あらしのよるに」を通しで幕見。

きむらゆういち・作、あべ弘士・絵の同名の絵本を歌舞伎化したもので、昨年、京都・南座で上演されて大好評だった作品の再演。

 

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「ともだちなのにおいしそう」
嵐の夜にお互いに正体を知らずに出会い、意気投合した狼のがぶと山羊のめい。
合言葉を決めて、翌日明るい陽の下で待ち合わせ。
お互いの正体を知ってびっくり仰天。
本来であれば「くうもの」と「くわれるもの」の関係な二匹。
お互いの立場を乗り越えて、がぶとめいの友情は続くのか…?

 

前評判どおり、とっても楽しい、心あたたまるエンターテイメント。
まず何と言っても主演のお二人がすばらしかった!!

「〜でやんす」と、ちょっと変わった喋り方をするユニークな狼ガブを演じる獅童さんは、登場するだけでお客さんの気持ちをぐっと惹きつけるスター性。

狼なのに、ちょっと気が弱くて心優しいがぶがぴったりだった。
男か女か曖昧な、中性的な雰囲気の松也さんの山羊メイの可愛らしさ。
とまどいながらも少しずつ距離を縮めていく二匹のやりとりがとっても微笑ましくて、ほんわかしたあったかい気持ちにさせてくれた。

 

脇を固める役者さんもそれぞれイメージにぴったり。

自分の願いを叶えるためには手段を選ばない、冷酷無比な狼ぎろの中車さんの大きな存在感。

そのぎろの腰巾着ばりいの猿弥さんの軽やかなコミカルさ。

正義感が強く、熱血漢の狼がいを演じた権十郎さんはさわやかにかっこよく。

魔術師のような狼のおばばを演じた萬次郎さんはさすがの芸達者ぶりで、妖しくうさんくさい雰囲気がばっちり。

対する山羊たちは、梅枝さんのみい姫は「これぞお姫様」という美しさ。

好青年なたぷ(萬太郎さん)と眼鏡をかけた秀才君キャラはく(竹松さん)、山羊のおじじ(橘太郎さん)もいい味を出していた。

 
言葉遣いは現代的で聞き取りやすくてわかりやすいし、ひびのこずえさんが手がけた衣装もポップでモダン
でも、演出や鳴り物、動きなど、古典歌舞伎の伝統を踏まえて舞台が作り上げられていて、今の時代ならではの新作歌舞伎になっていた。

観劇日がクリスマスイヴだったということもあって、「三味線であのメロディを!?」をはじめ、クリスマスにちなんだアドリブがたくさん。
千秋楽まで残り3日ということもあって、役者や太夫など、演者みんなノリノリ。
客席も笑いあり、手拍子ありで大盛り上がり。
子どもから大人まで楽しめるし、歌舞伎の入門編にぴったりだと思うので、ぜひ大切にして何度も上演される息の長い作品に育てていってほしいなぁ。

 

完全版 あらしのよるに (あらしのよるにシリーズ)

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あらしのよるに スタンダード・エディション [DVD]

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★Information

歌舞伎座

十二月大歌舞伎

第一部「あらしのよるに

 12/2(金)〜12/26(月)

 

【配役】

がぶ…中村獅童

めい…尾上松也

みい姫…中村梅枝

たぷ…中村萬太郎

はく…市村竹松

山羊のおじじ…市村橘太郎

ばりい…市川猿弥

がい…河原崎権十郎

狼のおばば…市村萬次郎

ぎろ…市川中車